白いコイビトたち  by真也






 静かな朝。
 うずまきナルトはできたばかりのコイビトの声を聞いた。
「ナルト」
「う・・・・ん」
 まだ眠いらしい。
「ナルト、起きろ」
「サスケ・・・なんだってば・・・よ」
 無理もない。なにせ昨夜は初めてお互いが求め合い、甘くとけあった夜だったから。
「起きろと言ってるんだ。でないと・・・」
「でないと?」
「カカシの気が近づいて来る。イルカ先生も一緒だ」
 がばり。うずまきナルトは瞬時に起き上がった。半分寝たままの頭を無理やり働かせる。そうだ。彼は昨夜、相棒を支配していた男を倒す為ここに来たのだった。
 まずい。
 うずまきナルトは思った。教師達はおそらく、一晩中彼の帰りを待っていただろう。もちろん、戦いに向かった教え子の安否を死ぬほど心配しながら。なのに、自分は大蛇丸を倒した後、任務完了の報告を忘れていた。それどころか、思いが通じた勢いで、コイビトと朝までしっぽりしてしまったのだ。証拠もばっちりある。体中に散らばった愛の花。こんなのをあの人達が見てしまったら・・・・・。
 ひやり。背中が急に寒くなった。
「ほら、服を着ろ!」
 うちはサスケがナルトの服を放り投げる。顔は既に蒼白だった。
「わ、わかってるってばよ。ボタンがうまく・・・・」
 おたおたと動揺しながら衣服をまとう。焦れたサスケが手を出した。
「ウスラトンカチ!かせ」
「なんだよっ!おまえが脱がしたくせにっ!」
「うるさいっ!脱がなきゃできないだろうが!」
 二人はもうパニック状態である。その時。
 ぶちり。
 ボタンが引きちぎれた。ころころと畳の上を転がってゆく。壁に当たって止まった。
「あ・・・・・・」
「どうするんだよっ」
「ちょっと待て。今すぐつけて・・・・・・え?」
 ふと冷気を感じた。イヤな予感がする。
 二人は戸口を見た。そこには・・・・いたのだ。首まで青筋全開のうみのイルカと、その後ろに隠れるように顔を出しているはたけカカシが。
 ぴきん。空気が凍った。
 沈黙。
 しばらくの間、誰も話そうとしない。異常な緊張が室内に溢れた。
「あ、イルカ先生。・・・・おはようってば」
 おそるおそる、ナルトが口火を切る。
「おう。ばっちり朝だな」
 にっこり。満面の笑みをたたえてイルカが返した。目の下のくまが眩しい。
「寝ぐせがついてるぞ。よく寝たか?」
「・・・・まあまあ、だってばよ」
「そうか。よかったな」
 ぎりり。言葉と共に奥歯が鳴る。後ろのカカシは天を仰いだ。
「それと、サスケ」
 くるり。イルカの首が右四十五度回った。視線がもう一人の教え子に向けられる。
「いい加減、手を離したらどうだ?」
 まだ顔は笑っている。薄ら寒いものを感じながら、うちはサスケは手の中のモノを見た。ひくり。端整な顔がひきつる。彼が手にしていたモノ。それは、うずまきナルトの下衣だった。凄まじい速さでその手を引っ込める。けれど、すべては後の祭りだった。
「身体を取り戻して嬉しいってのはわかるけどなあ、朝からズボン剥ぎはいかんぞ。ん?」
 びきり。さらに青筋が突出した。はたけカカシが顔を片手で覆う。大きなため息をついた。
「あのさあのさ。イルカ先生、これにはワケが・・・・・」
 五秒前。
「先生、誤解だ」
 四秒前。
「そうだってば。サスケはズボンをはかせてくれようと・・・」
 三秒前。
「カカシッ、あんたから何とか言ってくれっ」
 二秒前。
「やーだよー」
 一秒前。
「先生っ」
 ファイヤー!
「ばっかやろうーーーーー!」
 全壊したうちは屋敷の離れに、うみのイルカの怒号が響き渡った。




「まったく。アカデミー時代、口を酸っぱくして言ってただろうが。任務は復命を以って終了すると。おまえ達中忍なんだぞ?」
 正座する教え子の周囲をまわりながら、うみのイルカは指導した。若い二人は項垂れる。言い訳の仕様もない。一時の激情に流されて、後先考えなかったのは紛れもない事実だった。
「カカシ先生が状況を把握してくださってたからいいものの、おまえ達がやられたと里が動き出したらどうするつもりだ!」
 更に説教は続く。遠見で見てやがったな。うちはサスケはそう思ったが、今は顔に出すこともできなかった。何をしても火に油。目の前の恩師を激怒させるのはわかりきっていた。
「火影様にはカカシ先生が遠話で大まかな所を報告されている。ありがたく思えよ」
 ぴしりと言われる。コイビト達は更に小さくなった。
「イルカ先生、そこらへんでいいんじゃないかと。こいつらも反省してるようですし・・・・」
「何を言ってるんですか!これを機にしっかりと忍たる自覚を持たせませんと!」
「そうですねぇ。でもまあ、服ぐらいきちんと着させませんと。これじゃあ、どう見てもサスケは大蛇丸から解放されてないみたいじゃないですか」
 ぼりぼりと頭を掻きながらカカシが言う。たしかにそうだ。ナルトは前ボタンがとれたズボンのままだし、サスケに至っては大蛇丸愛用の白地の着物をまとっている。それもかなり寝乱れたままだ。
「・・・・・そうですね。わかりました」
 きっかり三十秒考えた後で、うみのイルカはそう答えた。若い二人はホッと胸を撫で降ろす。うちはサスケでさえ、この時ばかりは銀髪の上忍に感謝した。
「ほらほら、ナルトはズボンをちゃんと履く。ボタンはチャクラでつければいいでしょ?サスケ、お前も服着替えて・・・」
「カカシ」
「なによ」
「服がない。これしか残らなかった」
 無表情のままでサスケが言った。ナルトと大蛇丸の戦いの際、うちは屋敷は全壊した。よって、衣服を含むサスケの身の回りのものは、炎と瓦礫の下へと消えたのだ。
「・・・・・仕方ないねぇ」
「ごめん、おれ屋敷壊しちゃったから」
「ナルト、おまえは悪くないぞ。戦闘上、多少の被害は否めないからな」
 多少の被害か。俺は無一文だけどな。
 うちはサスケはそう思った。しかし、自分が全ての元凶なので仕方がない。始末されてもおかしくなかった。命があっただけでも儲けものなのだ。
「わかったよ。サスケ、俺のお古をやるから」
「よかったな!さすがに、おれの服じゃ小さいもんなぁ」
 ナルトが嬉しそうに言う。うちはサスケは一瞬、心底イヤそうな顔をした。けれどすぐに、もとの無表情に戻る。愛しの相棒をこれ以上、悲しませるわけにはいかなかった。 
「ともかくお前達、今から俺ん家来なさいよ。んで、報告行け」
「報告って?カカシ先生がしたんだろ?」
 ナルトが首を傾げる。
「正式な報告に決まってるでしょ?俺のは仮報告なの」
 呆れたようにカカシが言う。ナルトが「あ、そうかー」と、納得した。
「まだまだ今日は忙しいんだぞ。報告が終ったら、二人とも、行く所がある」
「行く所?どこだってば」
「それはな・・・・・」
 にっこり。うみのイルカが笑った。サスケの背中に悪寒が走る。ナルトはまったく思いつかないらしく、小首を傾げて恩師を見つめた。




 そして。
 うずまきナルトとうちはサスケは三代目火影に報告をした。三代目はナルトの功績をたたえ、同時に時限印の解術と結界術の会得を評価し、彼を上忍に昇格させた。褒美として一週間の有給休暇を与え、体力回復の期間、ナルトはカカシの家でのんびりと暮らした。そして、うちはサスケは・・・。
 うちはサスケは報告後、即時に暗部研究所へとやられた。名目は時限印の影響が残っていないかである。彼は暗部研究所でありとあらゆる検査を受けたあげく、薬物毒物耐性試験までこなして里に帰還した。そして、途中で立ち消えになっていた上忍試験を受け直したのである。
 あいにく上忍試験は既に終了していた為、特別に試験管が二名用意された。その二名の試験管、はたけカカシ次期火影候補とその補佐、うみのイルカ上忍にみっちりと試験されたあげく、うちはサスケは上忍になったそうである。
 うずまきナルトとうちはサスケの二人は今、次期火影候補見習いとその補佐として、且つての師に仕える日々を送っているらしい。



 コイビトたちは今日も頑張る。
 若いから障害も多いだろう。
 だけど愛は溢れているから、彼らは進んでゆくのだ。
 未来へと。



終わり



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