束縛 byつう 龍尾の砦に帰還した理寧の報告により、木の葉の里の状況がかなり明確になった。 理寧は、うずまきナルトに術を伝授したらしい。それを聞いたとき、煉は意外を通り越して、無謀だと感じた。そんなことをしても、はたして「うちは」を取り戻すことができるのか、と。 うずまきナルトという少年は、たしかに素直で人はいいが、忍として突出した能力を持っているとは思えなかった。そのうえ、九尾を内に封じている。万一、なにかの拍子で封印が解かれてしまったら。 それこそ、今回と同じような騒ぎになるかもしれない。しかも、時限印の解除方法を会得したとなれば、ふたたび九尾を封印できたとしても、自らの力で解術してしまう可能性もある。 そこまでデメリットがあるのに、なにゆえ火影はナルトにうちはサスケの救出を委ねたのだろう。 「対象に近づけるのは、あの者だけだ。それゆえ、三代目はあの者を選んだ」 淡々と、理寧は事情を述べた。 術の伝授に半月を要した。体調を整えて解術の機会を窺うのに、さらに数日。 「で、成果は」 幹が身を乗り出して、訊いた。きっと、それも賭けのネタになっていたのだろう。 「わしがここにいるのだ。うまくいったに決まっておろうが」 すると、ナルトは術を解いてうちはサスケを救い出したのか。煉は息をついた。ならば、あの少年の評価を見直さなければ。 だいたい、この理寧の指南を受けて、途中で投げ出すこともせず、術を会得したのだ。それだけでもたいしたものだと言えよう。 「三代目から、追って今回の礼が届くだろう。蒼糸さまのところへは、すでに特使が出された」 「今後のことについて?」 「むろんだ。でなければ、こんな分の悪い仕事はせぬ」 独立に向けての、最終調整。それに木の葉を巻き込む。この期に及んで雲の国に四の五の言わせないために。 「んじゃ、また忙しくなるなあ」 どうやら賭けに勝ったらしい幹が、機嫌よく言った。 「龍央は人手が足りてるとして、龍頭と高坂と、あと、出城にテコ入れしといた方がいいんじゃねえか?」 「雨の国も、な」 理寧が釘を差す。 「いまのところは静かだが、いよいよとなれば、なにをしてくるかわからぬ」 「そのあたりのことも、木の葉側と打ち合わせねばならん。……特使は、うみの殿か?」 煉が訊いた。理寧はわずかに眉を上げた。 「いや。ほかの者だ」 使者の名を告げる。その男は一時期イルカの上官だった。高坂の城攻めのおりには、先陣を勤めている。 「ああ、あの髭面の上忍ねえ」 幹は納得したらしい。 「けど、どうかしたのかい? 副官さんは」 森羅と木の葉の連絡役は、最近でこそサスケとナルトが受け持っていたが、基本的にはカカシとイルカが中心となっている。今回、サスケとナルトが動けないとすれば、イルカが使者となるのが順当だろう。 「里を離れられぬ事情があるようだな」 含みのある言葉。幹は肩をすくめた。それ以上、訊くつもりはないようだ。煉も同じだった。 「では、とりあえず……幹」 「はいはい」 「龍央へ行ってくれ。蒼糸さまと木の葉側に、雨の国も考慮してもらうように」 「わーかった。ついでに、龍頭の様子も見てくるわ」 「頼む」 幹が茶を飲み干して出ていく。おそらく、今日中に龍央に到着するだろう。詳細がもたらされるのは、明朝か。それまでに、こちらでも叩き台を作っておかねば。 何枚かの報告書や地形図を確認する。卓の上を片づけていた理寧が、すっと手をのばしてきた。予感。煉は顔を上げた。 首を掴まれる。一瞬、身を固くした。過去のあれこれが脳裏に浮かぶ。 「なんだ、その顔は」 理寧が眉をひそめた。手が引かれる。体温が離れていく。 「理寧……」 煉は立ち上がった。不安。いわく言い難い感情にとらわれ、煉は理寧の腕をとった。瞬間。 その手がねじりあげられた。反射的に体を返す。足がすくわれ、煉は床に倒された。 わけがわからなかった。いま、自分はどんな顔をしていたのだろう。なにか誤解しているのだ。きっと。 理寧の手が帯にかかった。結び目を解き、横に引く。それが手首に巻き付いたとき、煉ははじめて声を上げた。 「なにをする!」 「なにも」 冷ややかな声。ぞくりと全身が震えた。 背中で両手を拘束され、腰を引き上げられた。前方にも手が回る。 「……!」 いきなりの刺激。これでは、まるで拷問だ。理由を訊こうにも、まともに声が出ない。 責められて。責められて。嵐のような激情が収まるまで、それは続いた。 抱き上げられた。そっと牀に下ろされる。外はもう黄昏だった。 手首にはいましめの跡。肩とひざには擦傷。きっと、頬骨のあたりもいくらかすりむいているだろう。そして、いちばん激しく責められた場所は、いまだにこの男が留まっているかのような違和感を残していた。 もう、いいだろう。訊ねても。 煉は口を開いた。 「……どんな顔だった」 ひっそりと、問う。理寧は夜具を整えつつ、 「いつもの、おまえだった」 「え?」 「砦の配備や策を論ずるときと同じだ」 つねと同じ顔。 ……そうか。煉は納得した。 自分は考えてしまったのだ。明日までに為さねばならぬことがある、と。 この男が触れてきたとき、それを計算した。いまから事を行なっても、差し支えない、と。 そんな心の内が、伝わらぬはずはない。この男は、それを侮辱ととったのだろう。 「すまない」 意識するより前に、言葉が出た。理寧はじっとこちらを見ている。闇色の左眼と、白濁した右眼で。 顔が近づいてくる。肩をがっしりと掴まれた。深い口付け。心を奪うような。 肩まで掛けられていた毛布がさらりと剥がされた。指が彷徨を始める。先刻とは違った道筋で。むろん愛撫の仕方も違う。追いつめる手法は同じでも。 「……は……あ…ああっ……ん」 声も変わる。単なる反応ではなく、求めるものへと。 このとき煉の頭の中には、目の前にいる男以外、なにも存在しなかった。 翌日。 龍央から子細を告げる文が届いたとき、煉はまだ牀に伏していた。理寧はそれに返書をしたためてから、煉を起こした。 「これでよいな」 短い確認。煉は頷いた。文筥を手に、理寧が房を辞す。 さて。 頭を切り替える。体はまだ、万全ではないが。 おそらく、年明けには雲の国を退けることができるだろう。そして、独立は成る。その後のまつりごとについても、十分に検討しなければ。 固く唇を結び、煉は牀の幕を開けた。 (了) |