『燃える椿の下で』
by真也
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LAST ACT 〜いつか、椿の下で〜
椿咲く季節に、あいつは再会した。
兄である男に。事切れる寸前の、うちはイタチに。
あいつは真実を知った。当時知らされていなかった事実を。
ぽつり、ぽつりとサスケが言葉を紡ぐ。それは、胸を掻きむしられるような懺悔だった。
あの日。あいつは特務についた。うちはイタチの生存確認と暗殺任務に。そして、知らせられた場所にイタチは確かにいたのだ。
「・・・・死にかけていた」
サスケが呟く。整った面が、苦しげに歪んだ。
「白いヤブツバキが咲いてて、兄さん、その下に横たわっていた。気を知ってなかったらわからなかったかも知れない。それほどやせ衰えて、弱っていた」
じっと膝の上に置いた手を見ている。拳が握られた。
「兄さんは時限印に侵されていた。だから、うちはの座敷牢に入っていたんだ。そして、時限印が発動した時、一族を虐殺して里を離れた。兄さんがやったんじゃない。あの印の術者に操られていたんだ」
絞り出した言葉。あいつ自身を割くような声。握られた拳がわなわなと震えた。
「時限印に侵されていても、兄さんは負けてはいなかった。印の力に逆らいながら、自分に術をかけた奴を倒した。全力を尽くして戦ってたんだ。なのに、俺はそんなの知らなくて、兄さんに復讐してやる・・・・なんて」
一つ。二つ。サスケの拳に水滴が落ちる。小さく嗚咽が聞こえた。
「あの日も息巻いて向かったんだ。殺してやるって。みんなの敵を取ってやるって。・・・・だのに」
ダン。床に拳が打ちつけられた。あいつの横顔。涙が流れ落ちてゆく。
「兄さん、『すまない』って言ったんだ。『お前に倒されてやれなくて、すまない』って。たぶん、時限印の力に必死で逆らって、俺を生き残らせたんだと思う。なのに、俺に殺される気でいたんだ。当然のことのように」
嗚咽。止めどなく流れてゆく。
「俺は、兄さんを憎むだけだった。憎んで、一人にした兄さんを恨んで。殺すために強くなろうとした。兄さんのことを少しも知ろうとしないで・・・・・・・俺なんか!」
ガンッ。再び拳が打ちつけられた。床板が割れる。折れた破片であいつの拳が切れた。流れ出す血。
「もういいってば!」
必死で抱きしめた。もう傷つけなくていい。もう責めなくていいのだ。おまえは十分、傷ついている。
「責めんなよ・・・。おまえの兄貴、ちゃんとわかってるよ。だから・・・」
腕に力を込める。あいつの震えが止まるように。あいつの心が静まるように。その身体を抱きしめ続けた。徐々に震えが止まってゆく。
「・・・・ありがと」
震えが完全に止まった後、サスケを覗きこんで言った。静かな瞳が見つめる。濡れて、まっくろな目が。
「あの時、そのことが聞きたかった。おまえが苦しんでるのはわかってたから」
「ナルト・・・・」
「でも、おれわけわかんなくて、拒むしかできなかったんだ。今ならわかる。自分が何を思い、どうしたかったのか・・・・・」
片手で首を抱く。ゆっくりと引き寄せた。あいつを誘う。床の上に二人、倒れ込んだ。
「・・・・いいのか?」
信じられない。と、いった顔であいつが訊く。おれはその顔を見上げて苦笑した。いいも悪いも、この身体はそうなってしまっている。おまえが触れただけで、求めてしまう身体に。
「責任取れよ」
要求する。他に逃げ道などない。こんなにしてしまったおまえを、赦してやらない。
「一生、ドレイだからな」
サスケの目が点になった。すぐに柔らかく微笑む。今まで見た中で一番、美しい顔だと思った。
「承知した」
返事と共に落ちてくる。唇が。掌が。長い指が。おれを絡めとっていった。
待っていた。
怖れながらも待ち続けていた。
おまえが触れてくれるのを。
一つ一つ、確認するように唇が移動してゆく。壊れ物を扱うような掌。時折、許しを得るかの様に見つめられた。
『サスケ君、大切にしていたものねぇ』
いつだったか、大蛇丸がそう言っていた。あの時は何でそんなことを言うのかよくわからなかった。その時点でおれが知ってたのは、意地悪で横暴なあいつだったから。だけど、それは違う。
サスケはおれを大切にしていたのだ。触れて壊してしまうことを、怖れるくらいに。
「いいか?」
そこに指が触れた。囁き。躊躇いがちに落とされる。何だかくすぐったい。身体は何度も繋がってるのに。ちゃんとこんなに、熱くなってるのに。そんなに優しくされたら、どうしていいかわからない。だから、あいつの手を取った。おれの中へと導く。
「熱いな」
ゆっくりと慣らしてゆく。あまりにもゆっくり過ぎて、こちらがじれったくなってしまう位に。
「もう・・・いいから」
ついに言葉が出た。サスケが笑う。見とれる程色っぽい表情。身体が、疼いた。
「来いよ」
首に両腕を回した。身体を開く。その時を、待ちうけて・・・・・。
「・・・んっ・・・・」
もう自分に言い聞かさなくていい。自分を誤魔化さなくてもいいのだ。これはあいつ。おれがずっと求めていたサスケなのだ。ただ、素直に受け入れればいい。
息が交わる。熱も。声も。全てがおまえに混じり合ってゆく。思考も。感情も。何もかもが溶け合さって、おれを一つのものにしてゆく。おまえを感じるだけにものに。
その高みを目指して、二人、駆け上がった。
長い睫が呼吸のたび揺れる。月明かりの差し込む中、サスケの顔が淡く照らされていた。
よく眠ってるな。
穏やかな顔をすぐそばで見つめ、おれはくすりと笑った。
子供みたいだぞ。
険の取れたその目元。満ち足りた表情。それらがあいつの背負ってきたものの重さを表していた。今まで、耐え続けてきたのだろう。たった一人で。
これからは、イヤでも一緒だからな。
密かに宣言する。
おれはまだ未熟だから、おまえの背負うものを軽くすることはできない。けれど一緒に持ち続けていくこと位はできる。だから今は、共に歩こう。二人で同じものを抱いて進んでいくのだ。そして。
時が過ぎ、おまえの中でこの痛みがもっと緩やかなものになったなら。
行こう。
おまえの兄貴の眠る場所へ。
その人と一緒に燃えていった、白いヤブツバキのあった所へ。
いつか、ふたりで。
終わり
おまけで翌朝の話、『白いコイビトたち』へ