『燃える椿の下で』
by真也

 
ACT38 〜復活〜




 何度もその名を呼んだ。
 任務中にも、それ以外の時にも。
 でも今、もう一度おれはその名を呼ぶ。
 大切な、かけがえのない者の名前を。




 肌に赤みが戻って来た。ホッと息を撫で下ろす。あとは息をさせるだけだ。
「サスケ」
 そっと名前を呼ぶ。反応がない。
「サスケ」
 今度は普通の声で呼んだ。緊縛術はもう解けている。時限印だって消滅させた。だのに、何故。
 ふと思いついて不安になる。ひょっとして、戦いの時サスケの意識が表に・・・・。
『時限印が発動していた場合、解術は印と共にその肉体の意識まで滅する』
 理寧のおっさんの声が頭を駆け巡った。まさか!
「サスケ、サスケってば!おいっ、起きろって!サスケ!」
 がくがくと身体を揺する。勢い余って床にあいつの頭が当たった。ガンと鈍い音。 
「・・・・・ってえ」
 顔が顰められる。言葉と共に起き上がった。目が開く。起きた!
「サスケ!」
「痛い」
「起きたのかっ」
「結構なご挨拶だな。見ればわかるだろう」
 ぎろりと睨まれた。慌てて謝る。仕返しされるかと見上げた。怖い顔。ふいにサスケがにやりと笑った。
「呼んでくれたんだな」
 サスケだ。改めて思わされる。その笑み。その話し方。その意地悪な所。まさしくあいつだ。還ってきたんだ。
「あったりまえだろっ」
 殊更大きく返す。当然だ。おまえなんだから。
「おまえこそありがと。おれの言うこと聞いてくれて」
 心から礼を言う。本当によかった。お前を滅ぼすなんて洒落にならない。
「約束料、もらったからな」
 ぼそりとサスケが返した。バツの悪そうな顔。照れているらしい。
「ここは?」
「おまえん家。たぶん、離れだと思う。母屋は奴を倒した時、全壊しちゃったから」
「奴を倒したのか?」
 あいつが目を見張る。
「ああ。時限印、解いたんだ」
「おまえが・・・・か?」
 思いっきり疑問の目で見られる。むかっときた。
「そうだよ!何か文句あんのか?」
 睨み返した。相変わらず失礼だな。睨み合ってジャスト十秒考えた後、サスケが首を振った。
「緊縛術、解いてたしな」
「そうだろ?おれ、頑張ったんだぜ」
「そうか。すまなかっ・・・・」
 また謝ろうとする。途中で遮った。
「ストーップ!謝るのはナシだからな。これは、おれがやりたくてやったんだ」
「しかし・・・」
「なら、約束果たせ。それと一楽のラーメン一ヶ月分。それでチャラ」
「・・・・ナルト・・・」
 迷いの視線。まだ何か言い淀んでいる。どうせまた『すまない』だか『申し訳ない』だ。ぐい。あいつの胸ぐらを掴んだ。目の前に引き寄せる。まんまるな黒曜石の中におれがいた。
「一度しか言わないからな。よく聞けよ」
 誰のせいだとかどうでもいい。そんなことで、サスケと離されるなんてごめんだ。
「おまえが戻ったんだから、それでいいの!」
 大きく断言した。文句は言わせない。先生達にも。里の誰にも。もちろんサスケにだって。
「わかったな!」
 再度念を押す。固まったままだったあいつの顔が、くしゃりと歪んだ。
「・・・・ああ」
 絞り出した声。泣きそうな顔。初めて見た。サスケがこんな顔するなんて。思わず手が出た。震える頬をそっと包む。
「『前払い』のこと、覚えてるか?」
 あいつが頷く。
「言って・・・くれよな。知りたいんだ。おまえのこと全て。だから・・・・」
 話して欲しい。好きだから。おまえのつらいことも悲しいことも全部、おれの中に入れたい。共に背負い続けて行きたいのだ。
 唇を寄せる。微かに触れた。ゆっくりと押しつけてゆく。その感覚を刻みつけながら。口を開ける。熱い舌が流れ込んできた。




 奪い合うように交わした口づけの後、おれはサスケに訊いた。あの任務の日、何があったのか。うちはのことも、兄であるうちはイタチのことも。
 サスケは口を開き、静かに話し始めた。




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