『燃える椿の下で』
by真也

 
ACT37 〜奪還〜




 自分でも不器用だと思う。
 もっと上手く自分を誤魔化せば、かなり有利に戦えただろうに。否、戦う必要もないかもしれない。
 相手のスキを誘い、それにつけ込めばいいのだから。
 しかし、これはおれの戦い。おれがあいつと生きてゆく為の。
 だからこそ、前を向いて挑みたい。




 空が炎で赤く染まっていた。
 カカシ先生の家と同じくらいの広さだったうちは屋敷は、既に半分が炎に包まれている。パチパチと柱の焼ける音。風遁でおこされた強風が、更に炎を煽っていた。
「何をしてるの」
 炎の中、奴が立っている。左手に炎。右手にクナイが光っている。
「防御ばかりじゃ倒せないわよ」
 そんなことわかっている。でも。意識を制しているのは大蛇丸だが、身体はあいつのものなのだ。
『やっぱ、おれって馬鹿だよな』
 我ながら思ってしまう。正々堂々と奴に挑んだ所はよかった。けれども、どうやって奴と戦うかまでは考えていなかったのだ。 
 ウスラトンカチ。後先考えないから、そうなるんだろうが。
 サスケの愚痴る声が聞こえた気がした。小さく肩を竦める。本当、眠ってもらってよかった。もしこんなの見られたら、後で何を言われるかわからない。
 オラ、身体なんて気にすんな。やれ。
 あいつならそう言いそうだ。肉を切らせて骨を断つ。確かにそれは有効な戦法だろう。けれど、おれは敢えてそれをしなかった。理由は一つ。
 いつも、サスケはおれを庇っていた。傷つけないように。傷ついても最小限のように。きめ細かく配慮しながら、おれを守り続けていた。もちろん、自分はその分余計な傷を負いながら。
 正直、そんなの男として悔しい。だから思ったのだ。今回くらいは、あいつを傷つけないでいようと。
「ほら来なさい。サスケ君を気にしてたら勝てないわよ」
 言葉と同時に火炎が投げられた。防御結界を張る。炎はおれを避け、後ろの柱を燃やした。まずい。慌てて飛び退く。
「甘い!」
 火炎が追いかけてきた。襖が。障子が。柱が焼かれてゆく。屋敷内に煙が充満した。視界のいい方へと移動する。
 理寧のおっさんに感謝しないとな。
 走りながらそう思った。もし結界が張れなかったら、次々襲う炎と雷にやられていただろう。奴が繰り出していても土台はあいつの力。その威力は計り知れない。すべて躱しきれる自信はなかった。
「逃げても無駄よ」
 結界を張りながら外へと向かった。屋根へと飛び上がる。奴も追ってきた。月の下。黒い煙がたなびく屋根の上に、サスケの身体が立ちふさがる。
「馬鹿ね。サスケ君は『うちは』なのよ。おかげでどれだけ炎と雷を呼びやすいか。わかってるの?」
 あいつの顔が薄く笑う。綺麗に口の端が持ち上がった。
「こんな所にきたら、あれを使いやすいのよ」
 チャクラが渦巻く。青い光が見え始めた。バチバチと音。右手を取り囲んでいる。あれは、まさか。
「サスケ君の得意技で死になさいっ!」
『千鳥』で突っ込んできた。あれの直撃だけは避けたい。いくらおれの防御結界でも、守りきれるかわからない。全力で飛び上がった。
 ドゴォン!
 すんでで躱した。屋根が大きく抜ける。ギィィーっと大きな音がした。
 もうすぐ、屋根が落ちる。
 本能的にそう思った。今のは梁が軋んでゆく音。柱も根こそぎ燃やされている。屋敷自体が崩壊するのも時間の問題。たぶん、次の衝撃で確実だろう。
 崩れた時が、勝負だよな。
 額を汗が流れる。屋根が落ちる瞬間、あいつを結界で包んで緊縛術をかける。それしかない。緊縛術はあいつが奴にかけていた。術自体が奴にかかる事も立証済み。緊縛して動けないうちに、時限印の解術をかけるのだ。
 問題は、おれの結界能力だよな。
 苦笑しながら思う。時限印の解術だけでも高度な術なのに、防御結界と緊縛術も同時にやれるのだろうか?下手をすれば二人とも炎で助からない。それでもやるのだ。
「惜しかったわね」
 抜けた屋根の穴から、奴が飛び上がってきた。再度チャクラを練っている。放電。第二弾が、来る!
「これで、終わりよ!」
 奴が来た。防御結界を張る。キーンと金属音。かろうじて、止めた。
「ふふ・・止められたの。でも、いつまでもつかしら」
 不敵な微笑み。じりじりとあいつの腕が結界に食い込んでくる。今だ。いきなり結界を解いて飛び上がった。『千鳥』が屋根を打つ。その時、崩れた。
 間に合え!
 結界印を組む。落下直前、サスケとおれを防御結界で包んだ。次に緊縛術印。掛かった!
 

 ハアッ、ハアッ、ハアッ・・・・・。
 結界の中に荒い息が響く。外は炎の海。何とか間にあった。
「・・・く・・・・やるわね」
 横たわりながら、奴が言った。蒼白な顔。緊縛術は効いている。傍に膝をついた。時限印を。今から解術を。瞬時、戸惑った。
「早く・・・しなさい」
 奴の声。耳を疑った。
「解術・・・・できるんでしょ?」
「・・・あんた」
「それくらい・・・・わかるわよ。アンタ、全部顔にでる・・・から」
 口の端を持ち上げ、微かに奴が笑った。おれは目を見張る。じゃあ、知ってて見逃してたっていうのか?
「どのみち・・・長くはもたないのよ。サスケ君は・・・『うちは』だから」
「どうしてっ」
「写輪眼はね・・・・そんなに甘くはない・・・のよ。いずれ、時限印の力を・・・跳ね返すわ。うちは・・・イタチのように」
 うちはイタチ。あいつの兄の名前。それが、どうして。
 くすりと奴が笑った。蒼く変色する唇。
「アタシの本体は・・・・もう・・・ないのよ。イタチに・・・・滅ぼされたから」
「おいっ、それってどういうことだよっ。何でアンタ、サスケに出たんだ」
 思わず詰め寄った。しょうがないという目が、おれを捉える。
「今の・・・アタシは、時限印に残された・・・・術者の念。身体が滅びてすぐに・・・・取り込まれたの。そのまま・・・・消えたかもしれない。サスケ君が・・・・弱ってたから、出て来れたのよ。だから、里の時限印の話は・・・・嘘。安心・・・しなさ・・・い」
「・・・そんな」
 呆然と奴を見る。じゃあ、全ては奴の・・・。
「アタシは・・・長く生きた・・・わ。血生臭くて・・・つまんない人生・・・・だったけど。でも・・・最後におもしろいことも・・・あったから」
 奴は微笑む。術に緊縛されているのに。苦しいはずなのに。嬉しそうに。満ち足りた顔で笑んでいる。
「そろそろ限界・・・よ。これ以上は・・・・サスケ君の身体が・・・はやく」
 身体が細かく痙攣し出した。このままでは。
 

 さよなら。
 そして、ごめん。


 心で言う。項の時限印を確かめる。迷わず印を組み始めた。気とチャクラを限界まで高めて。


 封印結界。
 凍結の術。
 そして、時限印に封印結界。
 印が結界の光に包まれる。あいつの身体から、浮かび上がる。そして。


「砕破・滅却!」


 閃光がはしる。輝く光の中で、あいつの時限印が消滅した。




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