『燃える椿の下で』
by真也
戻る
ACT35 〜決心〜
今、心を決める。
大切なものを取り戻す為、敢えておれは戦う。
そこから生まれる全てのものを背負うと決めて。
閉ざされた空間の中に、自分の息音だけが聞こえた。呼吸は乱れ放題。右手と左脛の火傷がじんじんと疼いた。左腕と脇腹は裂傷。やっと血が止まりつつある。その他、無数に細かい傷が出来ていた。
「・・・くそっ」
言いながら印を組む。あとはこれしかない。
「水遁!水破弾!」
水の弾頭を放った。瞬時にそれがおれに向かってくる。
「うわっ!」
衝撃。飛ばされて障壁にぶち当たる。跳ね返りもといた位置に転がった。水遁も駄目か。
「ちっくしょう・・・」
痛む身体を無理やり起こした。よろよろと立ち上がる。あらかじめ加減をしておいてよかった。本気でやったら、確実に動けなくなるだろう。
自分のまわりに張られたものが、結界の一種だとは知っている。今まで攻撃、防御、封印の三種類の結界を学んだ。だけどこれは、どれとも違う。
朝から考えられるだけの術を試した。しかし、おれを取り囲む壁はびくともしない。それどころか、放った術は全て術者のおれに帰ってきた。
『それを解け』
そう言って理寧のおっさんはこの結界を張った。ここでは術がつかえない。なのに、どうやって破れというのだ。
ふと縁側に目をやる。おっさんが座っていた。閉眼したまま動かない。その奥の座敷に、イルカ先生が座っていた。
先生、ごめんな。
そう思った。大見得きったくせにこんなになってる。さぞかしじれったいだろう。けれど、いつもと変わらない顔をしてくれている。ずきりと胸が痛んだ。
『そこで頭を冷やせ』
おっさんはそう言った。おれがぐずぐず迷っていたからだ。でも正直、まだ答えは出ていない。
そんなのわからねぇよ。情けないよな。
再び縁側を見る。隻眼の男が見えた。廃眼をもつ男が。
『皆、いろいろ背負ってるんだよ』
カカシ先生の声が聞こえる。そうだ。みんな背負ってるのだ。おっさんも。先生達も。あいつも。
その時、気付いた。答えなどないのだと。
おれは奴を滅せなかった。滅ぼしていいのかわからなかった。そうしていい理由が欲しかったのだ。けれども。
滅していい者などいないし、滅ぼしていい理由などないのだ。どんないきさつがあったとしても、滅する事実には変わりない。正当化する事などできないのだ。
全てにおいて正しく在ることなどできない。きれいごとだけでは何も守りきれない。だから、敢えてそれをするのだ。自分の大切なものを、守る為に。
みんな何かを背負っている。背負いながらも戦い、生きてゆくのだ。大切なものを、守る為に。
おれも決断しなければならない。大切なものを失って、後悔しないように。
今、心を決める。
大切なものを取り戻す為、敢えておれは戦う。
そこから生まれる全てのものを背負うと決めて。
心を鎮めて気を張り巡らせる。結界の波長を。性質を。すべてを感じて。見えてきた。解除印を組む。
おれの大切なもの。
失いたくないもの。
それは・・・・。
ピィーン。
小さな音がして結界が消えた。破ったんじゃない。解いたのだ。
「・・・・ふう」
肩の力を抜いた。大きく息をつく。
「ナルト!」
イルカ先生が駆けてきた。
「おまえ、すごいぞ!反結界を解いたんだから」
肩を揺すられる。びっくりした。あれが反結界だって?
確認に縁側を見た。理寧のおっさんが立ち上がっている。
「来い」
呼ばれた。おっさんの前まで行く。
「解いたぜ」
「そうだな。だがまだ張れぬ。そこに立て」
おれの言葉に、初めて頷いた。少し離れた場所を指差す。
「はいはい。わかったってばよ」
返事しながらその場所へ行った。まだ何かするつもりらしい。やっぱ食えない。
「今度は何すんだよっ」
「反結界印を教える」
おっさんの返事に耳を疑う。呆然と顔を見つめた。
「手印を組め」
再度促される。慌てて印を組んだ。
その日、おれは本当の意味で決心した。
『奴を滅して、サスケを取り戻す』と。
ACT36へ