『燃える椿の下で』
by真也

 
ACT31 〜信頼〜




『時限印が発動していた場合、解術は印と共にその肉体の意識まで滅する』
 理寧のおっさんはそう言った。ならば。
 時限印を解く時、サスケを表に出してはいけない。
 出ていた場合、あいつは消える。
 おれが滅ぼしてしまうのだ。




 震える手でふすまを開けた。奥に人影。あいつの気だった。
「よう」
 いつも通りに声を掛ける。視線がこちらへとやられた。
「今日は、おまえなんだな」
「ああ。そろそろだと思って代っておいた」
 口元だけで笑う。もうかなりの時間、奴を抑え込めるらしい。表情にも余裕が出てきた。
「そうか。さすがだな」
 おれの言葉にサスケは首を振った。
「いや。まだ抑えこむしかできない。奴を俺から消してしまわなければ」
 一点を見据え、そう言った。結ばれる口元。あいつなりに模索しているのだ。奴を消す方法を。
「あせったって仕方ないだろ」
 近づいて言った。
「わかってる。しかし・・・・・・」
 もどかしげに言いかけて、やめた。「すまない」と呟く。視線を落とした。俯く顔。拳一つ上の位置にある。下から覗きこんだ。
「なあ。謝んなよ」
「他に、どういえばいいかわからない」
 ぼそりと言う。サスケは後悔しているのだ。今回のことを。全ては己の弱さが原因だと。そして、これ以上迷惑を掛けまいと戦っている。でも。今はそれが仇になる。
「どうかしたのか?」
 訊かれて我に返った。今度はこっちが覗きこまれている。目の前に漆黒。
「え・・・・何?」
「今日はお前らしくない」
 いきなり直球。一瞬、息が詰まった。
「そんなことないぜ。今日も元気一杯だってばよ」
 おどけて身体を離した。これで誤魔化せたとは思ってない。それでも一生懸命、笑った。
「そうとは思えない」
 両肩が包まれた。サスケの顔が迫ってくる。鼻先数センチで止まった。
「何か、あったんだな?」
 確かめるように訊かれる。小さく首を振った。
「何もねぇよ」
「なら、どうしてそんな顔をするんだ」
 更に近くに詰め寄られる。真摯な目。沈黙が流れた。
「俺には、言えないのか」
 呟き。声音に焦燥を見つける。思わず答えてしまいそうになった。けれど、言えない。
 おまえに言うことは出来ない。おまえの中には奴がいる。奴が聞いているかも知れないのだ。


 伝えたい。でも、どうすれば・・・・・。 


「ナルト」
 あいつの声。身体が動いた。首に手を回し、唇を求める。驚きに歯列が開いた。舌を滑り込ませる。


 言えなくて、ごめん。
 でも、信じて。 


 奥へと舌をのばした。あいつに絡みつかせて、おれの中へと導く。サスケがおずおずとやって来た。ゆっくりと内部を探り、更に奥へと進んでくる。息を惜しんで吸い合った。
「聞いてくれ」
 唇を離して言った。サスケが目で促す。言葉を続けた。
「これからおれがどんな目にあっても、どんな行動をとっても、奴と代らないでくれ」
 あいつの目が大きく開いた。
「無茶なことだと分かってる。理由も今は言えない。だけど、おれが呼ぶまで待ってて欲しい」
「何を・・・」
「おれ、きっとお前を呼ぶ。気付いたんだ。お前が必要だって。一緒にいたいって。だから、頼む」
 目に意志を込めた。信じて欲しい。勝手過ぎると思うけれど。
「わかった」
 しばらく見つめ合った後、あいつは言葉を返した。まっすぐな視線がおれを捕らえる。
「俺は、お前を信じる」
「サスケっ」
 再び身体を寄せた。あいつの体温を味わう。ギュッと手に力を入れた。
「今から引っ込めばいいのか?」
「うん。ごめんな」
「謝らなくていい。待ってるからな」
「ああ。必ず呼ぶ」
「じゃあ、約束料・・・・くれるか?」
 そっと訊かれて頷いた。サスケの唇が降りてくる。薄く口を開いて迎え入れた。確認するように進んでくる。全て、受け入れて。
 びくん。
 唇が離れた途端、あいつの目が焦点を失った。細かく身体が震える。そして。
「どういうつもりなの」
 嫌になるほど見慣れた、妖しい笑の男がいた。




「サスケ君、おとなしく眠ってるわよ」
 杯を進めながら、奴が言う。
「それも計画の内。かしら?」
 伺うように見られる。黙って杯を受け取った。
「まあいいわ。さあ、飲みなさい」
 杯に酒が注がれる。透明なその液体を見つめ、ぐっと飲み干した。杯を膳に置き、前を向く。
「今日はコワイ顔してるのね」
 奴がおれを見つめている。静かな眼差し。おれたちはこれから、戦うのに。
 改めて自覚した。時限印を解くことは、こいつと戦うということ。戦ってこいつを滅することなのだ。
「長い夜になりそうね」
 独り言のように奴が言う。そっと杯に口をつけた。おれはそれを睨み据える。


 仕掛けるんだ。
 スキを伺い、あいつを取り戻すんだ。
 時限印を解き祓って。


 張り詰めた空気の中、おれは座り続けた。




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