『燃える椿の下で』
by真也

 
ACT23 〜背負うもの〜 




 あいつは「うちは」を背負い、おれは「九尾」を背負う。
 理寧のおっさんは廃眼を背負っていた。
 こいつは、何を背負っているのだろうか。




「何見てるの」
 杯を片手に訊かれた。自分が奴を見つめていたことに気付く。戸惑って視線を外した。
「サスケ君の顔だからわからないでもないけど。あんまりおとなしいと気味が悪いわね」
 言葉とともに杯が差し出された。杯を受けとり、酒を注がれる。促しのままに飲み干した。
「だいぶ飲めるようになったわね。まあ、すぐ真っ赤になるけど」
「仕方ないだろ。酒なんて今まで飲んだことなかったんだから」
「そうね。この二ヶ月ほどで、いろいろベンキョウしたものね」
 くすくすと笑われて下を向く。バツが悪い。手元の杯を睨み付けた。
「ほらほら、そんなに怖い顔しないの。かわいい顔が台なしよ」
 そんなこと言われても、嬉しくない。
「本当。アンタって何でも顔にでるのね。素直ないい子だわ」
 面白そうに笑う。その中に見つけた。寂しそうな表情。思わず、口が出る。
「あのさ。・・・・・・・訊いていいか?」
「何よ」
「あんた、何でこんなことしてるんだ?」
 奴の杯を持つ手が止まった。それまでの豊かな表情が瞬時に消える。能面のような、サスケの顔。
「どういうこと?」
「あんた、自分を裏切り者だと言った。今だってサスケを支配してるし、時限印を楯に火影のじっちゃんや皆を困らせている。でも、あんたは里を憎みきっていない」
 思いきって言った。それは、ここ数日心に巣食っていた疑問だったから。
「どうしてそんなことが言えるの?」
 サスケの目がすっと細められる。妖艶に微笑んだ。ぞくり。背中を走る危険信号。それを振り払って言った。
「本当に里を憎んでいるんだったら、時限印のことなんて言うはずがない。むしろ、黙って皆発動させているはずだ。それに、あんただったらサスケを殺すこともできるだろう?サスケを人質に火影のじっちゃんを狙うことだって・・・・」
「それが、どうしたのよ」
 闇色の瞳。剣呑に光る。
「それに、里を憎んでるんだったら、どうして里の酒なんか飲むんだ。そんなに旨そうに。懐かしそうに。あんた、里が好きなんだろう?」
 一気に言い終える。まっすぐ見つめた。視線が絡み合う。奴が口を開いた。
「言うことは、それだけ?」
「・・・えっ?」
 瞬間、答えに窮した。首を掴まれる。二人分の膳が弾け飛んだ。破片が頬を、腕を切り裂く。
「・・・・・く・・・」
 息が出来ない。凄まじい力で絞めあげられている。必死で身体を捩るが、サスケの腕はびくともしなかった。
「お馬鹿さんね」
 耳元で声。ひっそりと囁かれた。
「駄目よ。そんなに簡単に人を許しちゃ」
 絞められた首ごと投げ捨てられた。二、三メートル飛んでふすまへとぶち当たる。がたん。大きな音と共にふすまが外れた。
「・・・・うっ・・・」
 畳に強打した頭を細かく振る。構えようとしたその時、項が鷲掴みにされた。右腕が背中で捕らえられる。激痛。少しでも動かしたら、確実に右腕が折れるだろう。
「あんた、まだ分かってないみたいね」
 嬉しそうな声が鼓膜を叩く。顔を向けようとしたが、すぐに押え込まれた。
「教えてあげる。本当のアタシを」
 下衣が引き下ろされる。何の用意もない場所に、激るものがねじ込まれた。




 切り刻まれてゆく。
 鋭利な錐で差し込まれるように。
 原形一つ、残さないように。
 穿つものが、奪い去ってゆく。
 思考も。意志も。意識も。
 いつ終わるかも、わからなかった。
 気を失っても、揺り起こされた。
 二度目に意識を失くす寸前、サスケの声がしたような気がした。




 混濁した意識の中、膜が掛かったように遠く聞こえる。
『俺を殺せ。俺が俺でいられる間に』
 あいつの声。思い詰めたような響き。
『それはできない』
 カカシ先生の声。淡々と告げた。
『何故だ。あんたならできるはずだ。本体の俺が死ねば、こいつはもう苦しまなくて済む』
 必死の声音。だめだ、それじゃ・・・・・。
『いい加減にしろ』
 ぴしり。鞭のような声。今まで聞いたことのない、厳しい響き。
『ナルトがどうしてこんなに頑張ってると思う。全てお前を取り戻す為だ。なのに、お前は逃げるのか?』
『・・・・カカシ』
 サスケの声。消え入りそうな呟き。
『お前は何をしている』
『・・・・・』
『もう一度訊くぞ。こいつがこうまでしている間に、お前は何をしているんだ』
 会話はそこで途切れた。
 先生、そこまで言わなくてもいいってば。あいつだって、きっと苦しんでる。
 霞がかかった世界の中、おれはぼんやりとそう思った。




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