『燃える椿の下で』
by真也
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ACT22 〜廃眼〜
知らなかった。
ハンデがあるなど、全く感じられない素振りだった。
それを持ちながら、彼はあれほどまでの動きをしていたと言うのか。
一瞬見えた。白濁して、光を通さぬ右目。
廃眼。
「手段は問わぬ。これを破れ」
攻撃結界の中から、理寧のおっさんが言った。
「何使ってもいいのかよ」
念のため確認する。沈黙を返された。答える必要はないらしい。
「よおし。思いっきり行くからな!」
言いながらクナイを握った。久しぶりの感触。やはり、血が踊ってしまう。
「はぁっ!」
一投。まずはクナイを放った。結界の威力を知る為。攻撃結界と言っていたが、どれほどのものだろうか。
バシッ。
クナイが一瞬で消炭になる。おそらく高音の熱。これは手ごわい。うかつには近寄れない。
接近戦は無理だな。
瞬時に判断して印を組む。炎かそれとも雷撃か。とにかく結界自体の性状を見極めなければ。
「たぁっ!」
火遁。炎が結界を取り囲んだ。一瞬でそれが消える。中のおっさんは無傷だった。
「くそっ」
吐き捨てながら印を変える。雷遁。あいつほどじゃないけど、おれにだってそれくらい使える。
「破っ!」
一撃を放つ。雷は結界に直撃。跳ね返ってきた。慌ててそれを避ける。メキメキと音を立てて、庭木が一本倒れた。雷も、効かない。
必死で考える。これは一筋縄では効かない。絶対的に防御力が違う。正攻法では跳ね返されるだけだ。何か策がなければ。
「終わりか」
おっさんが言う。
「まさか !」
そう答えて走り込む。遠くからじゃらちがあかない。ならば、近づくまで。
精神集中。最大限に結界を張る。覚えたばかりの攻撃結界を。破れるとは思えないけど、ぶつけた拍子に結界が歪むはずだ。ぶつかった衝撃を持ちこたえて、隙間を狙えば。そこから中の気の乱れを引き起こすことができれば。
「うぉりゃあああー!」
衝撃。青白いおっさんの結界と、おれの白い結界がぶつかる。吹き飛ばされそうな圧力。必死でふん張った。結界の隙間はどこだ。あそこか。
「行っけぇー!」
クナイを放つ。結界を通った。バシッという音と共に、双方の結界が弾けた。
「うわっ」
乱れた気に吹き飛ばされる。着地し、おっさんに向き直った。そして見つける。荒れ狂う気の中現れた、白濁した右目。
一瞬、言葉を忘れた。理寧のおっさんの右目はいつも、長めの前髪に隠されていたから。なにかあるのかもしれないとは思っていたが、そこまで気にしていなかった。
「・・・・・あ」
「今日はこれで終わりだ」
言い捨て、理寧のおっさんが踵を返す。さっさと縁側へと上っていった。
「昼餉は摂られますか」
座敷に座っていたイルカ先生が訊く。おっさんは無言で頷いた。
「ナルト、昼餉だ。手伝ってくれ」
イルカ先生が呼ぶ。おれは頷き、縁側へと向かった。
「おい。手が止まってるぞ」
イルカ先生の声で気付いた。椀の中の豆腐が茶色く染まっている。慌ててそれを口に運んだ。
「豆腐もご飯もおかわりあるからな」
「うん」
答えながらご飯を食む。どうしても理寧のおっさんに目が行ってしまった。気付かれないように、ちらちらと食べながら盗み見する。今はもう、右目は煉瓦色の髪に隠されていた。
やっぱ、あれじゃあ見えないんだろうな。ぼんやりと思う。垣間見た右眼は、白く濁っていた。おそらく、光を通すことはないだろう。
全然、気付かなかったよな。しみじみと思う。理寧のおっさんの立ち居振舞いは、普通の人と何ら変わりはなかったから。いや、普通の人のそれ以上だったから。
ぱしん。おっさんが箸を置く。両手を合わした後、すっくと立ち上がった。
「昼からの修行は休みとする。明日から封印結界だ」
ぼそりと言い、おっさんが部屋へと戻った。おれはその背中を見つめていた。
「ナルト〜」
カカシ先生の声。はっとして目をやる。
「え、何だってばよ」
「鶏肉、真っ茶色だよ。冷めた湯豆腐っておいしくないでしょ」
「あ、ごめん」
「別に謝らなくてもいいけど、イルカ先生が心配してるぞ」
言われてイルカ先生を見た。困ったような目が見つめかえしていた。
「大丈夫か?」
首を傾げて訊かれる。
「ああ、何でもないんだ。ただ・・・・」
「ただ?」
「おっさん、片目だったんだなって・・・・・さっき、見えたから」
心持ち思いきって告げる。カカシ先生とイルカ先生が顔を見合わせた。おれは何となく二人の顔が見れなくて、じっと下を向いていた。沈黙が流れる。
「皆、いろいろ背負ってるんだよ」
少しして、カカシ先生がぼそりと言った。おれは頷きながら、黙々と箸を進めた。
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