『燃える椿の下で』
by真也
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ACT2 〜失踪〜
上忍試験。
昨年の春、サスケはその受験資格を手に入れていた。周囲は当然、ほどなくあいつが上忍になるものだと思っていた。が、しかし。
サスケはそれを見送った。試験申し込みの手続きさえ、しようとしなかったのだ。疑問を投げるおれにあいつは言った。
「上忍になるだけが強さへの近道じゃない。中忍でもやり方次第で上忍を超えることができる。それに、おれは上に立つことに興味はない」
めずらしく柔らかに笑ったあいつ。その時おれは優れたものの余裕だと思った。受験資格さえ得られなかったおれへの当てつけだと。機会をわざわざ見送るなんて、おごり高ぶったやな奴だと。でも。
同時におれは、ひどく安心していた。
今、改めて考える。昨年サスケが試験を見送った訳を。
それは、あいつの言葉通りの理由だったのだろうか。
通いなれた道を歩き、火影屋敷へと向かう。そこに、あの人がいるはずだった。
あの人はもうアカデミーの先生ではない。上忍試験に合格し、今はカカシ先生の副官として火影屋敷の表方を取り仕切っている。忙しいかもしれない。でも、顔だけでも見たかった。
イルカ先生。
もうそうじゃなくなっても、あの人はおれの先生だ。今も、これからも。
サスケが上忍試験に行ってしまった後、おれはおれなりに考えた。あの日、サスケはどうしてあんなことをしたのかと。
いつものあいつじゃなかった。余裕と皮肉たっぷりのあいつでは。縋り付くように、おれを求めてきた。
いやだったんじゃない。おれは話が聞きたかった。あいつをそこまで苦しませる理由が。
驚いたんだ。慣れていた口づけじゃなかったから。
自分に言い訳している。みっともない。理由はどうあれ、おれの言葉があいつを傷つけたのは事実。そしてあいつはおれから離れてしまった。このままになってしまうのか。そんなのいやだ。心の中にしこりを残してしまうのは。
何とかしたかった。でも、方法がわからない。だから、イルカ先生に相談しようと思った。
「よう。元気でやってるか?」
表方を忙しくきりもりしながら、イルカ先生はいつもの笑みを向けた。おれの元気の素とも言える笑みを。
「・・・うん」
「どうした?元気ないぞ」
心配そうに覗きこんでくる。本当はそんな顔させたくない。でももう、どうしたらいいかわからなかった。
「イルカ先生」
「なんだ」
「サスケが、わからないんだ」
勇気を振り絞ってそれだけ言う。イルカ先生がじっとこちらを見ていた。おれは俯き、黙り込む。言葉が見つからなかった。
「そこの部屋に入って待ってろ」
先生が片隅にあるドアを指差し、ぼそりと言った。
「一段落したら、話を聞くからな」
宥めるような声。一瞬、泣きそうになった。おれはこくりと頷いて、指定されたドアを開けた。
「確かにそれは・・・・サスケらしくないな」
火影屋敷の片隅の小さな一室で、イルカ先生は呟いた。
「だろ?あの時のあいつ、本当に様子がおかしかった。いつもと全然違ってたんだ」
腕を組み、イルカ先生が黙り込む。何かを考えているようだった。
「・・・・ともかく、会って話すしかないだろうな」
「先生もそう思うか。でも。あいつは今、いないし・・・・」
「そうだな。上忍試験だから砂の国、か」
ため息と共に言われ、頷いた。上忍試験は一ヶ月間かけて行われる。あれから二週間。少なくともあと二週間は会えない。
「ともかく原因が知りたいんだ。あいつがあれだけ動揺する。なまじな内容じゃないはずだ。おれは、それが知りたい。きっと、その前に行った雪の国での任務が関係していると思うんだ。イルカ先生、先生なら知ってるだろ?教えてくれよ」
切羽詰まって頼む。なさけないけど、今はそれしかできない。
「ナルト・・・・」
イルカ先生は言い淀み、困った表情でおれを見つめた。迷っているようだった。
「だーめだよ」
聞き慣れた声がした。窓を見やる。その向こうに、銀髪の上忍が腰かけていた。
「カカシ先生!いつの間にいたんだって」
「ナルトは私的な相談事をしています。隠れて聞くのはどうかと思いますが」
「ナルトは俺の部下であり教え子でもあります。サスケも然り。充分、聞く権利はあります」
ぴしりと言った言葉がさらりと返される。すごいな。おれは苦笑しながら窓を開けた。
「イルカ先生、いいんだって。カカシ先生、入ってってば」
「どーも」
カカシ先生が中に入ってくる。すたすたとイルカ先生の隣に座った。イルカ先生は黙っている。少し、怒っている?
「すいませんねぇ。三代目のじーさんと話してたら、遅くなっちゃって。年寄りの話は長くていかんです」
「・・・・いえ」
ちょっと空気が冷たく感じる。その場をなんとかしたくて、言葉を投げた。
「カカシ先生。だめってどういうことだよ」
「忍者が何でもべらべら喋るワケないでしょ。たとえ、お前とイルカ先生の中でも。ねえ」
銀髪の上忍が隻眼でちらりと隣を見やる。隣の黒髪の上忍がキュッと口を結んだ。
「それに、あの任務はサスケだけの特務だ。よって、お前みたいな中忍が知ることのできる内容じゃないの」
「うっ」
痛いところを突かれた。なんか悔しい。でも、それは事実だ。
「ま、ともかく。お前にできるのは待つことだけだね。いつ、サスケが里に帰るかわからないけど。ひょっとしたら帰らないかも知れないし」
「カカシ先生、それはどういうことですか?」
イルカ先生が眉を顰める。カカシ先生は無表情な目で言葉を放った。
サスケが、上忍試験中に失踪したと。
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