『燃える椿の下で』
by真也

 
ACT17 〜解術〜  




 太陽が大きく傾いていた。もうすぐ、日が沈む。
 カカシ先生の家の庭で、おれは朝からずっと転がされたままになっていた。
 じりじりと体中が締めつけられてゆく。手足はもう痺れて感覚がないし、胸が強く押されている為、呼吸が出来なくなってきた。酸欠で頭がぼーっとする。考えが上手くまとまらない。
 緊縛術か。
 必死で記憶を辿る。今までの任務で緊縛系の術に掛かったことはなかった。サスケが防御結界で術をガードしていたから。
 あいつなら知ってるんだろうな。ぼんやりと思う。いつもそうだ。サスケが土台を作り、障害の少ない状態でおれが自由に戦う。あいつは調整してくれていたのだ。おれが戦いやすいように。極力、おれに被害が及ばないように。
 守られていた。今さらながらに思う。なのに、おれは気付こうともしなかった。それはあまりにも自然だったから。
 文遣いや外交任務もそうだった。要人の名前や里内外の細々とした関係。策略や作戦の内容。それらは全部あいつが記憶していた。おれはあいつに任せきり、子供の遣いをしていただけだ。
 馬鹿だよな。しみじみ自嘲する。
 サスケはありとあらゆる意味でおれを助け、守っていた。普通、口づけ一つでそこまでやる奴はいない。そんなものの価値など、ないに等しいのだから。
 自惚れてたんだ。
 骨身に染みて思う。おれはいい気になっていた。あいつの想いの上に、のうのうと胡坐をかいて。
 おれは何も返していない。あいつに、なにも。
 返さなきゃ。ありったけの集中力を額に集める。サスケが困ってるんだ。せめて、時限印だけでもなんとかしたい。これだけは、おれにしかできないのだから。
 チャクラを練り、気を研ぎ澄ませてゆく。そうだ。思いだした。
 以前、任務でサスケが緊縛されたことがあった。両手を封じられたあいつは気を極限まで張り詰め、低く口呪を唱えた。あれは、確か・・・・・。


「解」
 

 ぴしん。金属音が響いた。身体を取り巻くものが弾けた感覚。次の瞬間、呼吸が楽になった。痺れて感覚がなかった手足に血が巡る。痛い。生きてる証拠だ。おれは大きく、息を吸い込んだ。酸素が入って鮮明になりつつある頭を挙げる。ゆっくりと身体を起こした。
「ナルト!」
 イルカ先生がこちらにやって来た。おれを助け起こしてくれる。
「解いたぜ」
 縁側を見た。理寧のおっさんが無表情に返す。
「明日から始める」
 言い捨て、座敷へと入っていった。よかった。これで時限印の解術を教えてもらえる。
 ひょっとして、見守ってくれたのかな。
 ふと思った。おっさん、ずっとおれを見ていた。おれが緊縛されている様子を。普通、おれの力を見るだけなら、緊縛術の解術だけ確認すればいいはずだ。なのに、あの男は最後まで見続けてた。
 顔に似合わず、いい人かもしれない。
 そんなことを思いながら、おれはその背を見送った。
「大丈夫か?」
 先生が訊く。おれは微笑んだ。
「うん。腹減ったよ」
 笑いながら返した。結局昼は緊縛されたままだったから、何も食べてなかったのだ。
「夕餉できてるぞ」
「ラッキー」
 イルカ先生に背を押されながら、おれは座敷へと上がった。




「なるほどねぇ」
 玄関先で、カカシ先生が言った。おれを送って行く為、先程帰宅したのだ。
「しかし、お前に緊縛術が解けるとはね」
「だってあの理寧っておっさん、解けなきゃ圧死とかいうし。本当に死にそーに苦しかったんだってば」
「こらこら、おっさんはないでしょー?センセイって呼びなさいよ。一応、教えてもらうんだから」
「そうだぞ。ナルト」
 隣でイルカ先生。ダブルで困った顔。しかたなく頷いた。
「ま、でも。よかったじゃない。進歩したし。解術も教えてもらうんでしょ?」
 くしゃり。温かい手が頭を撫でる。細められる隻眼。照れ臭いような気持ちを抑えながら、頭の手を退けた。
「カカシ先生、子供じゃないって」
「そうだな。りっぱな大人だ。ね、イルカ先生」
「ええ。そうですね」
 ダブルで笑顔。くすぐったい。
「さて、ナルト。これからお仕事だぞ。いいな」
「うん」
 真摯な視線に答える。そうだ。これからはおれの仕事。おれだけしかできない仕事。気持ちを切り替える。イルカ先生を見た。
「行ってきます」
「ああ。明日の朝食、焼き鳥つけるからな」
「やった。楽しみにしてる」
 微笑む。先生の気持ちに応える為に。大丈夫。おれ、頑張れるよ。
「行くぞ」
 カカシ先生の声。遠駆けの印。口呪が唱えられる。次の瞬間、世界が歪んだ。




「着いたぞ」
 一瞬の間にそこへ着く。うちは屋敷へ。
「あ・・れ?」
 屋敷の前で気付いた。結界が張ってある。これは、地下の牢に張っているものと同じ。
「カカシ先生・・・」
 疑問に思って隣を伺う。先生はぼそりと、「入ってみればわかる」と言った。どうしたのだろう。意を決して前に進む。玄関から中に入った。
「えっ?」
 入ってすぐに気付く。あいつの気だ。それと奴の気。近い。普段は地下で封じられてるから、屋敷に入っただけではわかりにくいのに。
 どうしてだろう。
 気を頼りに屋敷を歩いた。座敷を抜けて縁側へと進む。おれは目を見開いた。


 縁側には、奴が座っていた。




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