『燃える椿の下で』
by真也
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ACT16 〜試し〜
森羅。
何度か文遣いでそこには行ったけど、こんなおっさん知らない。砦の主である煉という人は、下忍時代からよく知っていたが。
「ほら、挨拶しろ」
イルカ先生が促した。釈然としないまま、ぎくしゃくと頭を下げる。黒い隻眼がじっと見つめた。
「時間が惜しい」
ぼそりと低音。目の前の男がくるりと踵を返した。話が見えない。
「お待ちください」
イルカ先生が引き止める。じろり。無表情な面が向けられた。
「この者は朝餉をとっていません。眠りも然り。せめて、一刻ほど仮眠を取ってからに」
「甘い」
鋭い声。ぴしりと断ずる。イルカ先生に何だよ。かちんときた。
「やればいんだろ」
殊更大きく言った。先生にあんなこと言われて、引き下がれるわけない。
「イルカ先生。おれ、やるよ。大丈夫だって。今日はちょっと寝てるし」
背筋を伸ばして言う。そうだ。今日なら少し余裕がある。今からだって平気だ。
「お前・・・・」
心配そうに伺われる。目の前の男を睨みながら言った。
「時限印の解除術、あんたが教えてくれるんだろ?なら、さっさとやろうって」
すたすたと庭の中ほどに進もうとした。がしり。肩が掴まれた。イルカ先生だった。
「ナルト、まずは食事だ。空腹ではろくな事ができないぞ」
真剣な目。有無を言わせない口調。正論だ。実際お腹も空いている。
「わかったな」
畳み込むように念が押された。
「用意は出来ています。理寧殿もお入りください」
先生がおっさんを見た。射るような視線。男は否定しなかった。
「結界を張ってみろ」
一言も話さない朝食の後、庭に出てすぐおっさんは言った。おれは黙り込む。結界を張ったことなど、一度もなかった。
「できぬのか」
あからさまに侮蔑されて唇を噛む。悔しいけどそれは事実。仕方なかった。
「来い」
呼ばれて目の前に行く。おっさんが指を噛み切った。流れ出た血を指につけ、手を伸ばす。
「なんだよ」
とっさに身体を退いた。なにをすんだよ。
「動くな」
地を這う声。額に何か書かれた。印が組まれる。
「!」
額が熱い。途端に身体が動かなくなった。足が払われ、ものを言う間もなく庭に転がされる。地面でしたたか背中を打った。起き上がれない。
「何をなさるのですか!」
イルカ先生の声。座敷から聞こえた。その声を無視して、言う。
「緊縛術をかけた」
抑揚のない声。言葉が継がれた。
「解いてみよ。夕刻までに出来なければ圧死する」
言い捨て、すたすたと屋敷へ歩いてゆく。縁側に腰を降ろした。
「理寧殿。いくら何でもいきなり無理です。ナルトは術者ではありません」
イルカ先生が詰め寄る。隻眼が先生を見据えた。
「情けない」
「何を」
「木の葉の中忍はその程度か」
先生が息を飲んだ。
「己の緊縛すら外せぬものに、他者の印を解術する力はない。教える価値もないわ」
平然と言い捨てる。絡み合う視線。凄まじい気が渦巻いた。
おれは地面に転がされたまま、僅かに動く首をおっさんに向ける。思いっきり睨みつけた。無感動な視線が返される。
畜生。
こんな奴に好き勝手言わせるか。それに。このままじゃ、やばい。圧死なんてごめんだ。
まだあいつを取り戻してない。時限印の解術。それがいるのだ。どうしても。
「く・・・そ」
じわじわと体中が締めつけられてゆく。息苦しくなってきた。記憶を紐解く。思いだすんだ。緊縛を外す方法を。
奥歯を噛み締め、おれは必死で考えを巡らせた。
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