未来の俯瞰図 byつう
うずまきナルト。うちはサスケ。
九尾の封印と「うちは」の血。いずれも里にとっては、諸刃の剣である。
三代目火影は、「写輪眼のカカシ」に密命を下していた。いわく、「九尾と『うちは』が里に仇為すと判断された場合は、すみやかに処分すること」。
要するに、ナルトやサスケが暴走したら殺せということだ。
もしかしたら、そういう含みもあるのかもしれないと思っていた。カカシが七班の担当になったときに。
なにしろ、カカシは暗部出身の手練れで、通ったあとには屍の山と血の海が広がると噂された男である。イルカ自身、カカシがいかに強大な力を持っているか、よく知っている。だが。
実際にカカシの口からそれを聞いたときは、体が震えた。あらゆる未来が交錯して。
九尾を解放したナルトが里を襲う未来。血継限界の能力を暴発させて、全身を血に染めるサスケ。そして、なにより恐ろしかったのは、彼らを眉ひとつ動かさずに処分するカカシの姿だった。
そんなことがあるはずはない。そう思ってはいても、可能性はゼロではない。なにかの拍子で、なにかの間違いで、事は悪しき方向へと進むものだから。
「それで……どうなさるおつもりです」
力なく、訊く。行為の名残りを留めた褥の中で。
「どうって、なにが」
ふた色の瞳を見開いて、カカシが訊き返した。少年のような表情。閨の中でだけ見せる、愛しい顔。
「ナルトたちのことです。火影さまのご命令通り……」
「なーんだ、そんなこと気にしてたの」
くすくすと、カカシは笑った。イルカはむっとした。笑い事ではない。心血注いで育てた子供たちなのだ。万が一にもこの手で引導を渡すようなことはしたくない。
「手」として接したわけではないのだ。彼らには。たしかに自分は火影の「手」だ。アカデミーの教官になったのも、ナルトやサスケの監視のためだった。しかし、自分は信じた。彼らの未来を。
人を信じ、愛し、守っていく心があれば、きっと良き方向へ進むはずだと。
「センセイだねー、イルカ」
さらり、と頬を撫でられた。一瞬、体の力が抜ける。
唇が近づいた。まじないにも似た、触れるだけの口付け。
「なーんかヘンだと思ってたのよ。オレが一生懸命やってても、まったく上の空だしさー。かと思ったら、いきなり積極的になっちゃったりして」
いたずらっ子のように、カカシは笑った。
「あいつらのこと、心配してたのね。妬けるなー」
言うなり、乱暴に抱きしめられた。首筋に、肩に、胸に、あちこちに標を付けられる。痛いほどに。
「でも、そーゆーイルカも好きだよ」
耳元で囁かれた。ぺろり。ゆるやかに、舌が動く。見えない力に押されるように、体が揺れた。
ついさっき、体をはなしたばかりなのに。もう腰が疼いている。
「……ごまかすつもりなんですか」
必死に抵抗する。このまま、また流されてしまいそうで。
「そーんなこと、しないよーだ」
脇から下腹に指が滑る。言ってることとやってることが違うじゃないか。
「ちゃんと、説明してあげる。でも、ね」
手首を返して、その場所を刺激する。イルカは小さく呻いた。
「お互いに、落ち着かなくっちゃ」
するりと手が忍び込む。奥へ。
「言ってよ」
甘い声。
「いいって、言って」
否やもなかった。
イルカは、カカシの望む言葉を口にした。
満たされて。狂わされて。憂いを忘れるほどに。
この男とともにある喜び。この男と滅することさえも。
なにを案じていたのだろう。自分は、この男を愛したのに。人として、なにもかもを賭けて。
「ねえ、イルカ」
眠りが訪れる直前に、カカシが呟いた。
「だいじょーぶだよ」
髪を撫でる、てのひらの感触。
「なんたって、あいつらはあんたの教え子だし」
そのあとの言葉は、うっかりしたら聞き逃すほど小さかった。
「オレの部下なんだから」
そうだな、カカシ。
おれの教え子で、おまえの部下だもんな。
「人」の世界に、引き返してきたおれたちの。
ナルト。サスケ。そしてサクラ。
自分の信じる道を、きっと見つけてくれ。
待っている。おまえたちを。
おまえたちが作る未来を。
おまえたちが描く未来を、おれはちゃんと、見つめていくから。
(了)
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