行月byつう



ACT4〜帰結〜




 なんて、いい顔をするんだろう。
 長剣を抜きながら、セキヤは思った。
 血と汗と粉塵にまみれ、瀕死の状態だというのに、この静かな表情はどうだ。
 いままで、自分は数多くの命を奪ってきた。逃げる者、命乞いをする者、恐怖のあまり狂ってしまう者。たとえ死を覚悟しても、それを納得する者など皆無だった。
 納得できるわけがない。自らの意志とは無関係に、命を絶たれるのだから。
 疲れはて、諦めて死を受け入れる者もいた。しかし、この男は違う。
 悔しいけど、こいつの中にいるのね、黒髪さん。
 セキヤは目を細めた。ふたりで、いるんだ。だから……。
 これが手向けだ。
 セキヤは剣を振り下ろした。





 その首が落ちたとき、周囲から歓声が上がった。
 呪縛から解き放されたように、つわものたちが動き出す。
「寄るな!」
 セキヤはいま自分が獲ったばかりの首を抱き、片方の手で複雑な印を結んだ。四方八方に、強烈な気が飛ぶ。
 かすかな地鳴りののち、あたり一面に爆音が轟いた。一瞬にして山肌がえぐりとられ、岩は砕け散る。周りを取り囲んでいた忍やつわものたちの大半は、それから逃れることができなかった。
 西方の攻防は、木の葉の国にも雲の国にも甚大な損失を与え、その後の戦況に大いなる影響を与えることになる。そして。





 セキヤは、龍央の砦から山をひとつ隔てた東壁にいた。
 かつて、イルカが吹雪の中で遭難して救助を待っていた窟の中。いまはまだ雪はない。冷んやりとした空気が漂うその場所で、セキヤはカカシの骸を完璧に処理した。
 忍の遺体は、髪の毛一本残さないのがしきたりだ。とくに、カカシのように特殊な能力を持っていた忍は、遺体と言えども木の葉の国にとっては最高機密であろう。
 あのとき、もし自分が写輪眼を欲していたら、カカシは迷わず自爆していた。それこそ、山ひとつぐらい吹き飛ばしていたかもしれない。
 まったく、最後の最後まで、いい性格してくれて。でも。
 最後の最後に、俺を信じてくれたんだな。
『おまえを信じたんじゃないよ』
 声が聞こえた。いかにも不本意そうな。
 はいはい。わかってるよ。
 あんたが信じたのは、あいつだってこと。
 それは、俺も同じだ。あいつが信じ、すべてを残したあんただから。
 だから全部、引き受けた。ほんと、貧乏くじだけどさ。
 しあわせそうな顔。満ち足りた表情。カカシの中に、イルカがいた。
 ねえ、黒髪さん。もう、行けるだろ。あんたの「いいヒト」と一緒なんだからさ。よかったね。やっと、安心できて。




 雲ひとつない蒼天に、黒い瞳の鳥が啼く。
 愛しい命を呼びながら、さらなる高みに上っていく。
 彼らは還ったのだ。ひとつの場所へ。
 


  (了)




ありがとう、カカシ。ありがとう、イルカ。
ありがとう。この物語を読んでくださった方々へ。
今、私の持てるすべての感謝の気持ちを、皆様に捧げます。
真也拝

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