*サスケ最後のシーンが出てまいります。一部気持ちの悪くなるかも知れない記述箇所あり。苦手な方はご遠慮ください。







紅い眼の記憶
   by真也






 
私のいちばん、古い記憶にあるもの。それは、紅い眼です。
 まだ小さい頃でした。一日が、目粉しく過ぎていた時代です。ガイおじい様の腕に抱かれて、大きなお家にやってきました。
「へえ。これが、アンなの」
 のんびりとした口調で言った人は、銀色の髪で蒼い片目。何故かもう一方の目を、髪で隠していました。
 その人に抱き上げられた時、とても高くて、少し怖かったのを覚えています。
「アン。こんにちは」
 覗きこんだその人の、髪の隙間から、紅い眼が見えました。
 蒼い目も海みたいで綺麗でしたが、もう一つの眼も夕日みたいで、とっても奇麗でした。
「アンは、お父さんお母さんが好きかい?」その人が言いました。私は「とても好きです」と、答えました。
「そうか。よかったねぇ」
 その人がニッコリと笑いました。目の横に小さなシワがあって、とても優しい顔でした。
 私も、嬉しくなりました。




 私のいちばん、忘れられない記憶にあるもの。それは、紅い眼です。
「アン。お前に頼みがある」
 その人は、私がよく知る人でした。黒い髪と黒い目。無口だけど、とても優しかったのを覚えています。よく、うちにも遊びに来てくれて・・・・いつだったか、その人の引っ越しを母たちが手伝ったこともありました。彼はさまざまな術を使いこなす上忍で、木の葉の『攻守の要』と言われた人でした。
 見上げた時、その人は紅の両眼をしていました。二つの瞳が、火のように燃えて、目を奪われるばかりでした。
「あいつに伝えてくれ。『俺は、還ってくる』と。それから、渡して欲しいものがある」
 敵方の兵が迫ってくるという中、本当は恐ろしいはずなのに、ちっとも怖く感じませんでした。
 ただ、目の前の瞳が、あまりに美しくて。
「後ろを向いていろ」白い眼の上忍が言いました。私は訳がわからず、呆然としていると、目を何かで塞がれました。驚いて、でも怖くて。じっとしていました。なにか、肉を抉るような音がしました。なんだか、嫌な音。私は不安になりました。
 塞がれた目がやっと自由になって、彼を見ました。彼は、目を瞑っていました。何故だか、閉じた瞼から涙のように血が流れていました。額当てに包まれたものを手渡されて、私は気付きました。
 これは、彼の紅い眼なのだと。凍結の術で凍らせてはいるけれど、たしかにそれは、あの美しい瞳なのだと。
 私は胸が痛くなって、何か言いたかったけど言えませんでした。
 白い眼の上忍に必死でついて走って、木の葉の砦が見えた時、私がいた方向から大きな爆発音が響きました。
 その時、彼が亡くなったことを知りました。
 私は、哀しくなりました。




 そして今、あの方が涙を流しています。
 金色の髪を長く伸ばし、碧い瞳を持つ里の長。長い間、この時まで一人で歩き続けて来ました。
 両手に二人の子供を抱きしめて、あの方は静かに泣き続けています。口元には、笑みを浮かべて。
 その腕の子供たちは、同じ顔、同じ黒髪をもっています。そしてあの、紅い眼。
 奇麗な。とても奇麗な、命の火の色。あの方を照らし続けます。
 私は、涙が止められませんでした。



 願わくば、紅い眼よ。
 あの方に光を。喜びを。
 これからの道に、灯をともして。



 哀しみを、焼き尽くして。



 私がいちばん、美しいと思うもの。それは、紅い眼です。



end




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