『朝が来る』by真也

ACT13



 ここにあるのに。
 確かに、あるのに。
 どうして叶えられないのだろう。
 おれの、ささやかな夢。
 多くを望んでいるわけでは、なかったのに。



『くれよ』
 切羽詰まって、訴えた。見開かれた、闇色の瞳。
『ならば、くれ。おまえをくれよ!』
 どうしようもなくて絞り出した。心の叫び。
 悔しかった。自分の役割を承知して尚、心を抑えることは出来なかった。
 逃げてはいけない。逃げることは出来ない。だから、求めた。
 せめて、おまえがほしいと。





「う・・・・ああっ」
 奥まで受け入れて、苦痛のような声が出る。
 苦しいとは思わない。これはあいつなのだから。
 あいつの与えるものを、一つ残らず逃しはしない。
 繰り返す律動。圧迫感。息苦しいまでの感覚。痛みさえも甘美に思える。
 絶え間なく責めてくる。まるで、終ることなどないかのように。
 穿つものを、その度全身で受けとめた。反射的に身体が動く。さらに深く、迎え入れるために。
 見上げると漆黒の瞳。求めている。おれを。
『いいぜ』
 力を抜いた。途端に、中を抉られてのけぞる。漏れでる声。誘うように、甘く響く。
 何度か体勢が変わっても、離れずに受け入れ続けた。



 暴れ狂うあいつ。体中に響く。
 奪ってゆく舌。絡めとられて、息も声も消えてゆく。
 掴みあげる手。動きを封じて、ねじ込んでくる。


 いいんだ。
 苦しくても。痛くても。辛くても。
 終わってしまうよりは、いいんだ。だから。


 刻んで、おれに。
 お前を刻んで。
 消えないように。無くならないように。離れないように。
 叶わないのなら、せめて。


 紅く、蒼く、刻印が生まれる。
 おまえが身体に残してゆく、痛みと快楽を生み出す印。おまえのものだという証。


 どちらかが果てても、おれたちは互いに手をのばした。二度、三度交わりつづける。全てを移し換えるかのように、丹念に身体を繋ぎ続けた。






 空が白んでくる。
 何度目かの交わりの後、おれ達は横たわっていた。互いの背に手をまわしたまま、しっかりと身を寄せる。結局二人、一睡もしなかった。
「朝が、来るな」
 あいつが言った。響く低音。心に沁みる。返事はしなかった。
「もうすぐ、朝が来る」
 確認するように、再度言った。闇色の瞳。先程の炎は、跡形もなく消え去ってしまっている。ただ、穏やかな漆黒の色。
「・・・・朝が来たら、お前は行かなければならない」
 焦れたのか、するりと身体が離された。肌の隙間に、風が滑り込む。掛け物を滑らせ、夜具の上に座った。傍に落ちていた夜着に手を伸ばす。たまらず、その手を掴んだ。離れた身体を引き戻し、肌を合わせる。しがみついた。
「まだだ」
「ナルト・・・・」
「まだ、朝は来ていない!もう少し・・・・・日が昇るまで。おれは、諦めたりしない!」
 両手に持てる全ての力を注ぎ込む。離れたくはない。引き剥がされたくはない。何者であろうと、そんなことはさせない。
 サスケの腕が身体にまわる。息苦しいほどに、力が込められた。
 日が昇り、朝日が部屋に差し込むまで、おれ達は互いを抱き続けた。




 おれ達の行く末に、大きなものが待ち構えている。
 しかし、進まなければならない。
 彼らもかつて、進んだのだから。
 自らに架せられた役割を、果たさないわけにはいかない。
 応えていかなければならないのだ。
 たとえ、そこに、何があるとしても。




 一月後、木の葉の里内外に三代目崩御の報が出された。それと同時に、五代目火影誕生の報も。
 木の葉の国の五代目火影。それは、金髪碧眼の青年だったという。



end




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