こっちのサスケとナルトは『鳥』シリーズの二人と人格違います!ギャグ仕様(笑)*







愛の暴走特急2    by真也
〜日向ネジの場合〜







「と、いうわけでね。困ってるのよ。サクラちゃん」
 日向ヒナタはそう言いながら、冷めかけたミルクティーを口に含んだ。一口のんで、にっこりと笑う。本当に困っているようには見えないが、どうも困っているらしい。
「あたしたちも23かあ。父親にとっては、気になるお年頃ってやつね」
 山中いのがまた一つクッキーをつまんだ。確か10分ほど前に『ダイエット中なの』と、宣言していたのだが。もはや無意識なのだろうか。
「でもまあ、本人に内緒で話を進めるっていうのは、頂けないわよね」
 サクラが一つずつ包装されている煎餅の袋を開けた。直径10cmほどのそれを二つに割り、隣のアンに手渡す。今年4才になるアンは、受け取った煎餅を更に手で割って口に運んだ。さすが両親に似て、几帳面である。
「でしょう?まあ、見合いだってわからなかったわたしも悪いんだけど」
「で、相手ってどんな人?いい男?」
 現在彼氏募集中のいのが訊く。
「うーーんと。ふつうの方よ。たしか、事務方面の方だったような・・・」
「そりゃ、ヒナタちゃんのお父さん。手堅くいったわね」
「やっぱり下手に上忍なんかと結婚させてさ、娘が早くに未亡人になったりしたら、目も当てられないとか思ったんじゃない?それに上忍ってさ、どれも曲者ぞろいだし」
「ちょっと。リーさんは曲者じゃないわよ。本当、いい人なんだから」
「はいはい。あんたん家の惚気は聞き飽きたわ」
「ナルト君も曲者じゃないわよ。サスケ君と並んで、若手上忍のあいだではトップクラスだもの」
「そうそう。あたしもサスケ君狙ってんのよ。でもあの二人、どうもガードが固いのよね。どうしてかしら」
「まっ、そのことは置いといてさ。日向家は、ハナビちゃんが継ぐの?」
 サクラが何故か、顔を引き攣らせながら訊いた。
「うーんと。中忍試験以来、父さんもう、日向家のことにうるさくなくなったわ。なんだかあれで、長年の肩の荷がおりたみたい」
「日向宗家の長も、ただの父親、か」
「まあ、私は楽に暮らせてるから、いいけどね」
「でさ。どうするの?」
「そうそう。このままじゃヒナタ、ウェディング・ロードまっしぐらよ」
 いのとサクラが詰め寄る。
「だからね。サクラちゃんといのちゃんに相談してるのよ。それに私、お約束した人がいるし・・・」
「だれよ!それ!」
 明らかに先を越されたいのが突っ込んだ。目が真剣だ。
「約束したということは、ナルトじゃないわね」
 真相を把握しきっているサクラが、白々しく呆ける。煎餅を食べきったアンが、そばにあったクッキーの箱に手を出した。別の方向を向いたまま、母親がピシリとその手を叩く。
「アン。自分の分は食べたでしょ?ヒナタおねぇちゃんにいうことは?」
「おかしたべてもいいですか?」
「はい、よくできました。クッキーでいい?」
「うん」
「どうぞ」
 アンは受け取ったクッキーをまた二つに割った。クッキーのカケラが散る。やはり、ものによって食べ方が違うことまでは把握してないらしい。
「実はね。その人。今、任務中なの。砂との国境の砦に行きっぱなしで・・・」
「遠距離恋愛ね」
「そりゃ、ピンチだわ」
 いのが、ため息をつく。
「でも、どうやって約束までこぎつけたのよ。任務行きっぱなしじゃ、滅多に会えないんでしょう?」
 約束経験者サクラが訊く。
「うふふ。実はこれなの」
 ヒナタはニッコリわらって、数枚の便箋を出した。中には一ミリ角の文字がびっちりと、暗号の様に並んでいる。
「何?これ」
「手紙よ」
「何書いてんのか、読めないじゃない〜」
「そう?読めるわよ」
「ヒナタ。もしや・・・・」
「サクラちゃんさすがね。そう。こんな手紙が書けるのは、白眼の持ち主だけよ」
 ヒナタの答えに、いのとサクラは大きく首肯いた。






「というわけでさ、サスケ君たちに頼みたいのよ」
 サクラが拝むように、手を合わせて言った。
「おれたち、休暇中なんだけど」
 不機嫌そうにナルトが言う。
「だからさ。旅行がてら、二人で行ってくればいいじゃない」
「サクラ。普通、砂との国境の砦まで、わざわざ旅行する奴はいない」
 サスケが無表情で言った。
「だよな。なんでおれたちが、文遣いなんてしなくちゃなんないんだよ。一応、上忍だぜ。わかってるか?いくらおまえが受付に権力があるって言ってもな、これは職権乱用だぞ」
「それに。あそこには、カカシの奴がいる」
 スネに傷のあるサスケが、重々しく言う。表情は変わっていない。が、かなり嫌らしい。
「あ、それなら大丈夫よ。カカシ先生のいる砦は南側でしょ?あんた達に行ってもらうのは、北側だもの。後のことは調整しておくからさ、大至急行って欲しいの。ヒナタの運命が架かってるのよ。お願い、彼にこの手紙を渡して」
 サクラは一通の封筒を手渡した。宛て名を見て、ナルトとサスケは顔を見あわせた。
「・・・・・こいつ?」ナルトが目を丸くする。
「そう」サクラが首肯く。
「そうか。・・・・・あの噂は、本当だったのか」サスケが呟いた。
「噂って、何?」ナルトとサクラがハモりながら訊く。サスケは一瞬タジろいたが、ぼそぼそと話しだした。
「中忍試験予選の後、俺が木の葉病院に入院していた時の話だ」
「うん。それで?」サクラの耳はダンボだ。
「同じ病院に、ヒナタも入院していた。結構な期間だ」
「そうだよな。かなり重傷だったし」ナルトが同意する。
「いつからか、ヒナタの病室の窓に毎日、木の葉エーデルワイスの花が一輪、置かれるようになったらしい。看護婦たちが、誰が持ってくるのだろうかと騒いでいた。しかし結局、誰かわからずじまいのまま、ヒナタは退院した」
「ロマンティック。女の子なら、誰でもときめくわね」
「そんなもんか?花一本だろ?食っても、腹の足しになんないじゃないか」
「ナルト。そういう次元じゃない」
「サスケ君も苦労するわね」サクラがサスケの肩を叩く。サスケは心底、嫌そうな顔をした。
「俺は、思うのだが・・・・。木の葉エーデルワイスは秘境の花だ。それも、木の葉山にしかない。大抵、断崖絶壁のわからない場所にしか生えない。そんな花を毎日見つけて摘める奴は、写輪眼か、白眼の持ち主くらいだ。だからたぶん、花を届けていたのは奴だろう」
「ヒナタも知ってたのね。きっと」
「おい。だからなんなんだよ」ナルトはまだ、わからないらしい。サクラとサスケは揃って、大きなため息を吐いた。
「ひょっとして・・・・サスケだったのか?・・・・って!いてえよ!」
 見当違いな突っ込みをしたナルトが、サスケに拳を落とされる。サクラはこめかみを押さえていた。
「と、いうことで。やってくれるわね」
「気に入らないが。奴に貸しを作っておくのも、悪くない」
「ま、いいよ。人助けだし」
「じゃ、お願いね。出来るだけ急いでちょうだい。いいわね」
 サクラは念を押した。押された二人は、ただちに里を出発した。






 約二日後。砂の国との国境北側の砦の監視役、日向ネジは皮肉を込めたまなざしで、二人の訪問者を迎えた。
「何の用だ。上忍が二人で。増援の希望を出した覚えはない」
「違うよ。手紙を届けに来たんだ」
「手紙?貴様たち、つるんで文遣いだと?おふざけもいい加減にしろ」
「ふざけてなどいない」
 サスケがぼそりと呟く。ネジがフンと鼻を鳴らした。
「うちはも落ちたものだな。お遣いも一人で出来ないらしい」
「何」
 サスケが睨んだ。ネジも睨み返す。不必要に気が渦巻く。まわりの中忍たちは、脅えて退避してしまった。
「毎日探すの、苦労しただろう」サスケがにやりと言う。
「何のことだ」ネジが怪訝な顔をした。
「木の葉、エーデルワイス」
 わざわざ言葉を区切って、サスケが言った。とたんに、ネジの顔が赤くなってゆく。
「貴様!」
「何だ?」今度はサスケがフフンと笑った。
「あのさ・・・・もう、そこらへんでやめないか?」
 ナルトは一応、訊いてみた。瞬時に写輪眼と白眼に睨まれて、口をつぐむ。
「五年前だったかな・・・・」ネジが不敵に笑った。サスケが目を見張る。
「誰だったか、短期の助っ人で来た奴が、酒ビン担いでお遣いしたよな。目の下にクマつくって。帰ってきた途端、爆睡してたが」
「何が言いたい」サスケが睨む。
「ただの思い出だ」しれっとしてネジ。
「なあ、やめようぜ」危険を避けたいナルトが哀願した。
 気の摩擦で放電現象が起こり始める。あわや、白眼vs写輪眼の眼戦争勃発か!というところでナルトが手紙を差し出した。ネジが凝視する。
「手紙って・・・」
「そう。おまえにだよ」
「ヒナタからだ」
 サスケが言い終らないうちに、ネジは手紙をふんだくった。急いで封を破り、食い入るように見つめる。一気に顔色が蒼く変わった。
「ネジ。わかったか?」ナルトが覗きこむ。
「今ごろ、挙式かもな」サスケが平然と告げた。
 数秒後。
 ネジは駆けだした。早い。リーに匹敵する速さだった。砦を抜けだし、一目散に木の葉の里に向かっている。どんどん姿が小さくなって、消えた。

「どうする?」ナルトが訊いた。
「何が」サスケは無表情に返した。
「だってさ。ネジ。ここの指揮、取ってたんじゃないか?」
「だろうな」
「指揮官いないと、困るんじゃねぇの?」
「まあな」
「白眼って、砦の監視に不可欠だよな。洞察眼だし」
「なるほど。そういうことか」サスケが納得したように呟いた。
「何がだよ?」
「たぶん、これは計画的犯罪だ」
「はあ?」
「サクラは、ネジがこの砦から脱走するのを予測していた。だから、俺達にヒナタの手紙を持たせた」
「どういうことだよ」
「写輪眼は洞察眼の役割も果たす。充分、砦の見張りに使える。それに、俺達は上忍だ。ここの指揮をするのに不足はない」
「なるほど・・・・・じゃあ」
「きっと受付では、ネジの交代用員として申請されているはずだ。・・・・・サクラによって」
「はあ・・・・・」
 ナルトは呆然とした。サスケも複雑な顔をしている。どうやら、嵌められたらしい。したたかな女達に。
「なあ、サスケ?」
「なんだ」
「女って・・・・・・怖いな」
「そうだな」
 木の葉を代表する若手上忍二人は、顔を見合わせ、大きく息をついた。



 結局、日向ネジは二週間、里に留まった。
 なんでも、その二週間の間にヒナタの縁談をぶち壊し、力業で日向一族を説き伏せ、日向ヒナタと挙式したようである。
 その約十ヶ月後、日向ヒナタは一人目の男子を出産した。
 のちに、その子が日向家宗主となる。




end



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