それは、春の穏やかな日差しの中で行われた。 努力を顔に書いたような青年と、薄紅の髪の女性。かつて俺達と任務をともにした、現アカデミー教官のくの一。 二人は、多くの恩師や友人、家族の前で結ばれた。 清潔なほど簡素なウエディングドレスをまとった花嫁の胸元には、傷薬としてだれもが知っている薬草の花が、ドライフラワーとなって飾られていた。 君を癒すもの by真也 式も無事終わり、披露宴までのわずかな時間、俺は彼女に会った。 夜から任務に就くため披露宴に出ることはできなかったから、挨拶だけでもと思ったのだ。 会場からほどなく離れた丘の上に、サクラは佇んでいた。 「主役がこんなところにいていいのか」 「そっちこそ。ナルトを放っておいていいの」 「・・・やな奴だな」 「ふふふ。振られた立場としては、これ位言わせてもらわないとね」 髪の毛を掻き上げながら、花嫁はニッコリと笑った。 上手く言葉を紡げない俺を、理解してくれた数少ない友人。俺の想いを察して、そっと身を引いてくれた少女。 今はこんなに凛と立っている。眩しいくらいに。 「ガイ先生、大泣きだったわね。リーさんも泣いちゃって。大変だったわ」 「青春野郎だからな。よく疲れないものだ」 「よっぽど、嬉しかったのね」 「だろうな」 彼女の胸に揺れる花。何故だか気になった。 「・・・それ、どうして」 「ああこれ?きれいでしょ。ドライフラワーにしたの。こうすれば、傷薬になるしね。・・・おかしい?」 「いや。変わっていると思ったから」 「そう?」 いたずらっ子のような微笑み。なにか仕掛けているような。 サクラは胸の花を外した。ちいさな白い花びらが風に揺れる。 「これはね、誰かさんのお祝いなの。本当は式に来て欲しくて、連絡取ったけど・・・どうしても今の場所を離れるわけには行かないからって、同じ戦地からの負傷兵の人に託してくれたのよ」 「カカシが・・・か?」 「ええ。『この花は前線に咲いていた』って言づけて、ね」 戦場の荒れた大地に咲いた花。咲くその姿は奴の目を癒し、乾かして粉になったものは、奴をはじめ多くの忍びの傷を癒したのだろう。 花に頬を寄せてサクラが続けた。 「嬉しいの。今までこれほど嬉しいものって、もらったことない位に」 そういって、微笑む。その頬を流れる涙。この上もなく、奇麗な涙。 「カカシ先生、ちゃんと『生きて』いてくれているのね。『人』として。そして、彼の中には、あの人も生き続けている」 「ああ」 目を閉じて、首肯いた。きっちりと結わえられた黒髪。穏やかな笑顔が浮かぶ。 そうだ、生きているんだ。奴の中で、あの人が。 『俺はね・・・・『殺し』に行くんじゃなくて、『戦い』に行くんだ。わかるか?』 あの時に見た、大きな背中が浮かぶ。胸に何かが充ちてゆく。 温かい何かが。 「私ね、きっと忘れないわ。これから、リーさんと暮らす時間の中で、ひょっとしたら時々忘れてしまうかもしれない。嫌な部分がきっと出てきて、嫌いになってしまうかも知れない。でも、見失っても絶対見つけ出してみせる。彼を好きになった瞬間を。好きになった自分を。そして、また愛してみせるわ。ずっと」 「サクラ」 「負けはしないわよ。イルカ先生にも。カカシ先生にも。そして、サスケ君たちにも、ね」 あでやかに。そして誇らしげに彼女は微笑む。その姿は力強く、美しかった。 本当、手ごわい相手だな。奴も。お前も。 負けてはいられない。 呼ぶ声が聞こえた。ナルトだ。リーもいる。 「見つかっちゃったわね」 サクラが苦笑して言った。右目でウィンクする。 「行くか」 「そうね。化粧、直さなきゃ。いのにどやされちゃう」 「では」 俺は右手を出した。これは敬意。たくましくて、優しいお前への。お前が選んだ奴に託すまでの間だけ。 サクラが笑って手を差し出す。 ナルトやリーが何か言うかもしれない。でもまあいい。それくらいは許してもらおう。 これから愛してゆくのだから。 俺達はゆっくりと歩き出した。 end |