「火影様っ、おまちくださいっ」
印を組むおれの胴体にすがりつき、リーが叫んだ。
「正式な火影はもう六代目木の葉丸だ。その名で呼ぶな」
「でもっ、ナルトさんは五代目火影ですっ。ともかく、せめて輿で行ってくださいっ!護衛もつけずに遠駆けの術で行かれるなんて、無茶ですっ」
「黙れ。おれに指図するのか」
「指図ではないです!その身体にあの術は負担が大きすぎますっ!どうかっ」
「許せ。行く」
口呪を唱え、おれは風を巻き起こした。リーが吹き飛ぶ。その間に最後の印を組み終え、おれは飛んだ。
無茶は充分承知している。でも、時間が惜しいのだ。たとえ僅かな時間でも。
できる限り、彼に伝えなければ。
生きる方法を。
夢への道 by真也
「鈴、右手はこう、左手はこう添えるんだ。わかるな」
「うん」
「それで、練ったチャクラと気を乗せるんだ。タイミングに気をつけて」
「わかった」
添えていた手をそっと放すと、青白い結界が現われた。小さな、自らを守るのが精一杯の結界。でも、これが彼の武器になる。
小さくてもいい、強固な結界を。そのうち、力に応じてはれる結界は広がってゆく。思ったよりのみこみが速いのが、せめてもの救いだった。
素直な性格。忍術はおろか科学的なこと全般に抵抗がない。シギの教育の賜物といえた。
『ちょっとやそっとの毒物や薬、病原菌では死なないよう免疫を強化して育成しました』
淡々とシギは告げた。まるで、おれが暗部にやるのを見越していたように。でも、正直ありがたかった。
せっかく生まれて来たのだ。無為に死なせたくはない。せめて『彼ら』に会うまでは。
「いい調子だ。少し、休憩しよう」
声を掛けると、鈴は首肯いた。
動悸がしている。頭の奥に、軽いめまい。気を抜けば倒れてしまいそうな。
今朝の遠駆けの術が効いている。無理もない。ここの所、ほぼ毎日使っているのだから。
鈴に結界術を教えるため、暗部研究所に出向く。時間が惜しいので術を多用する。
そんな毎日は、おれの身体を恐るべきスピードで消耗させていった。体重は激減してしまったし、顔色は更に白くなった。意識を失う事も増えた。幸い気を張っている時は、比較的発作は起こりにくいようだったが。
命を削っているのは自覚している。でも、彼の生き残る可能性を少しでも高めたい。そのためならば、惜しくなのだ。
鈴の結界はなんとか形になってきた。あとは応用。それは実戦で鍛えればいい。
おれが飛べるのは、あと数回が限度だろう。
ふと気配に気付く。来たか。
「鈴、おれは少し席を外すから。今までの復習をしておいてくれ」
「はい。鳴(なる)、早く帰ってきてね」
ニッコリと微笑んで言った。寂しがりやで、純粋な魂。ねじ曲げるには胸が痛む。でも、それでは生き抜いてゆけない。
おれは首肯き、控えの間へと向かった。
「お久しぶりにございます」
「ああ」
現暗部の長、油女シノは無表情におれを迎えた。
「驚かぬのだな」
「どんな表身であっても、火影は火影です」
「正式な火影は六代目だ。もう、ナルトでいい」
「そう言うわけにはいきません。して、ご用命は」
「わかった」
アカデミーで共に学び、中忍試験を乗り越えた友人。冷静な判断力と確実な任務遂行能力。しっかりとした統率力。今も、暗部をまとめ上げてくれている。
「お前に、頼みたいことがある。一つは、火影として。もう一つは、うずまきナルトとして」
「彼、でございますか」
「見たか」
「はい。暗部にございますれば」
「あれを、おまえに託す」
黒眼鏡の奥の目が見開かれた。
「と、いうことは。彼を暗部にやると言うことでしょうか」
「そうだ。彼には基礎的な体術と結界術しか教えていない。おまえが鍛えてくれ。暗部で生き抜けるようにだ。手加減はしなくてよい」
「一つ、確認がございます」
「何か」
「手加減をしないとなりますと、命を落とす可能性が多く出てまいります。それに、失礼ながらあの容姿です。命は取られなくとも、強者に身体を供することも強いられましょう」
淡々とシノは告げた。わかっている。それも充分考えられること。でも。
「構わぬ」
「火影様」
「どんな状況でも、どんなことをしても生き残る。そうなってもらわねば困る。でなければ、『彼ら』に会わせる価値がない。うちは一族末裔の足手まといにするわけにはいかぬのだ。もし暗部で命を落とすようであれば、それだけの器だったということだ」
シノの眉がピクリと揺れる。口を結び、膝を折って拝礼した。
「五代目火影として、頼む」
「御意」
「それと、これはうずまきナルトとして頼みたい」
「はい」
「いつか、風か雷、もしくは両方が暗部へと向かうだろう。あいつの血に導かれて、強さを得に。もし、その時鈴が生き残っていたら・・・・」
「彼が、生き残っていたら」
「見守ってやって欲しい。心を交わすならばよし。憎しみ合うようならば、鈴を処分してくれ」
「ナルト・・・・」
「辛いことを頼んですまない。でも、あいつの血を絶やすわけにはいかないのだ。頼む、シノ」
「・・・・わかった」
シノが首肯く。目に、口元に浮かぶ強い意志。
おれは安堵する。これで鈴の道はひかれた。あとは、それを歩む者しだい。彼に力があれば、生き残ることができる。
その未来を、自分は見ることはできないが。
「ここの主任死亡時より、彼をおまえの指揮下におく。行け」
「はっ」
音もなくシノが消える。おれはそれを見届け、目を閉じた。
「鳴、遅かったね。でも見て、うまく安定できたよ」
稽古場代わりの広間に戻った時、鈴は結界を張っていた。小さいながらも、完全な防御結界。おれは笑みを向ける。
「鈴、おいで」
鈴が駆けてくる。この短期間でよく慣れ、学んでくれた。
思いをこめて抱きしめる。細い体が驚いたように揺れ、おとなしくなった。
「・・・・鳴?」
「諦めてはいけないよ。・・・いつかきっと、君を待っている人がいる。君と生きる人が。それまでは、絶対に諦めてはいけない。生き抜くんだ」
「うん」
腕の中の自分が、微かに首肯く。おれには仲間がいた。師がいてあいつがいた。でも彼は一人。
一人だけなのだ。
それでも、おれは彼に架す。大きな試練を。
本当はゆっくり全てを伝えたかった。だが、そんな時間は残されていない。
ごめんな。おまえにこんなものしか残せないおれを、憎んでもいい。
だけど、きっと生き残って。怒りも、哀しみも、憎しみも糧にして。
いつか、おまえを待つ者たちのために。
イルカ先生。カカシ先生。サスケ。
どうか、彼に力を。
鈴の温かい体を抱きながら、おれは空へと願った。
一ヶ月後、暗部研究所のシギ主任は永眠し、鈴は暗部へと引き取られた。
end
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