その時、奴は来た。
 長い年月を待ち続け、空から駆け降りてきたのだ。
 大切なものを、取り戻しに。









空より来るもの  by真也








 予感はあった。
 ナルトの気は日に日に弱り、今にも断ち切れようとしている。
 もう時間の問題だとわかっていた。
 あの日。
『空が近い』とナルトが言った日。
 数日後、彼は昏睡状態に入った。ありとあらゆる方法が取られたが、その意識を取り戻すことは出来なかった。
 確実に消えようとしているナルトの生。里の者全体が、息を呑んで見守っていた。
『写輪眼はそれを持つ者の最後を告げる』
 ナルトは言った。
 彼はこの眼を持ってはいない。でも、現われるような気がしたのだ。
 この眼を持つ男が。
 その日の朝、予感は確信に変わった。今日なのだと。
 入っていた任務を早々に片づけ、俺は里で一番高い崖へと向かった。
 ここなら、見れるかもしれない。
 空に一番近い場所なら。
 写輪眼を見開き、俺はその時を待った。




「こんな所にいたの」
 聞き慣れた声に振り向く。俺と同じ顔。風がいた。
「みんな、探してたんだよ。さあ行こう。早くしないと、火影様が・・・」
「俺はここにいる」
「何だって」
 意志を告げると、眉に皺を寄せた。ということは、兄は気付いていないらしい。
 俺だけに伝わっているのだろうか。『奴』のみを原形とする俺だけに。
「行こう。これが最後かもしれないんだよ」
「わかっている」
「どうして。雷は火影様を慕ってたじゃないか」
「風。だからこそ、だ」 
「何言ってるの」
「ここなら見える。空から来るものが」
 言い終えてすぐ感じる。
 耳鳴り。
 最初はやっとわかるほどの。だんだん明確な音になってくる。
「何か・・・・聞こえる」
 風も気付いた。急激にそれが大きくなる。耳を塞いでも無意味な程に。


「くっ」
 凄まじい気。圧倒される。
 眼に焼けるような熱。耳から入る金属音が頭の中を掻き回す。
「うわあぁぁっ!」
 風が頭を抱えた。背を丸め、跪いている。
 負けない。これぐらいで、屈したりしない。
 どんなに奴が強大であろうと。
 歯を食い縛って眼を開く。空を見上げた。



 視える。



 蒼い視界の中に、黒い点。
 見る見るうちに大きくなる。



 奴だ。



「風!見ろ!」
 声を張り上げる。
「あれは」
「来たぞ」
「えっ」
「奴が来た」



 高速で落ちてきた黒い影は、瞬時におれ達の前を通り過ぎた。
「里に向かってる!止めないと!」
 風が叫ぶ。だが、二人とも金縛りのように動けない。身体を何かに囚われている。
 邪魔させない為なのか。
「身体が!くそっ!雷!」
 抵抗を試みるが、間に合わない。指先一つ動かす間も与えず、それは火影屋敷に落ちた。
「火影様!」
 空気が揺らぐ。見たところ、里に被害は無かった。
 やはり奴なのか。
 混じり合う気。俺達を圧倒したものと、もう一つ。これはナルトの。 
 ふと気付く。身体の自由が戻ったことに。
「雷、あれ・・・・」 
 風が指差す。その向こうに、光。
 金色のそれは、黒い影を伴って上がってゆく。
 まっすぐ、空へと。
「ああ。ナルトだ。それと、奴」
「あ・・・」
 泣きそうな兄の声。俺は言葉を継いだ。
「迎えに来たんだ。『うちはサスケ』が」
 風の顔が歪む。涙が溢れた。



 俺達の見ている間に、光と影は小さくなり、空に消えた。



「いって、しまったんだね・・・・」
 力なく風が呟く。俺は首肯いた。
 そうだ。彼らは還ったのだ。同じ場所へと。
「哀しむのはよそう」
 振り返り、俺は風に告げた。そうだ。哀しいことではない。
 ナルトはずっと、待ちつづけていたのだから。
 奴に会えるその日を。心から。
「きっと、よかったんだよね」
 ぽつりと風が言った。俺は微笑む。勿論そうだ。
 ナルトは奴と在ることを望んだ。
 俺たちの生まれるずっと前から。
 だから、いいんだ。
 これで。




 雲一つない世界を比翼の鳥が飛んでゆく。 
 その魂の安息を祈り、俺達は空を見上げた。



end




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