■森の国の人々を見守る作品 NO4■






業火     byつう







 焼けるようだ。
 いつもそう思う。なぜ、こいつはこんなにも俺を求めるのだろう。
 こんなことが、続くとは思わなかった。最初のときは。
 きっと、これは一度きり。こいつがなにかを振り切るために、必要だったのだろう。そう思った。
 自分たちは長いあいだ、ともに暮らしてきた。ひとつの目的のために、ともに生きてきた。だが、互いが互いを必要としたことはなかった。あのときまでは。
 セキヤがおのれを壊して、半身を見つけたとき。
 こいつは聖域を失った。それでもセキヤから離れられない自分を知って、こいつははじめて、だれかの手を求めたのだ。
 一度きりのことだと思った。
 そう、思った。





 何度めになるのか、もうわからない。
 熱い体を交わしながら、醍醐は同じ問いを繰り返す。なぜ、と。
 セキヤが自分を求めたときは、その理由が明確だった。だれかを殺しかねないほどの激情。それを受けとめられるのは、自分しかいないと思った。
 だが、これは違う。このひりひりとした、渇きにも似た熱はなんだ。
 肌にくいこむ指、荒い息、震える唇。なにもかもが、ただひとつのものを求めている。
 声が漏れる。おそらく、ほかのだれも聞いたことのない声が。
 一重の目が潤む。薄い唇が誘う。中に到達したときには、すでに体は最終段階を迎えていた。
「……だめ、です」
 切れ切れに、加煎が訴える。
「ん。けど、な……」
 この状態でどうしろというのか。留まったままでいるなど、到底できそうにない。
 醍醐は要求を口にした。少しでも、次に進みたい。加煎は頷いた。体の位置をずらし、態勢を整える。
 中の緊張がさらに高まった。快感が脳天に届く。自然と動きが早まって、ふたりは同じ瞬間に向かって互いの欲望をぶつけた。
「ん……っ」
 ぎり、と加煎が唇を噛む。わずかに、赤い色。
 情炎の象徴のようなその赤が、敷布に跡を残す。醍醐は加煎をかき抱き、さらに深いしるしを刻んだ。





 昼のあいだは、平静を保っているように見える。セキヤが不在のときの指揮権は加煎が握っていたから。
 仲間たちに対する責任。それがかろうじて、こいつを支えている。セキヤを失うかもしれないという恐怖から。
 西方の砦で「写輪眼のカカシ」が死んだ。その骸とともにセキヤが消えてから今日で三日。加煎は連夜、醍醐を求めた。
 甘いのかもしれない。こいつの心がセキヤのものであるかぎり、こんなことはなんの慰めにもならないのに。
「……断られるかと思っていました」
 いまだ整わぬ息のままで、加煎は言った。
「うん? どうして」
 額にはりついた髪をかきあげつつ、横を窺う。加煎はけだるそうに顔を上げた。
「セキヤの誘いを、拒んだほどですから」
「ああ、あのことか」
 醍醐は苦笑した。
「あんときは、もう刃がいたからな。俺の出る幕じゃなかったし、それに……」
「それに?」
 言い淀んだ隙に、返された。長年の付き合いだけに、すっかり読まれている。肌を合わすようになってからは、ますますその傾向が強くなったようだ。
「……セキヤを、なくしたくなかった」
 抱くことは簡単だった。セキヤが望んでいるのだ。だが。
 それは一時の錯覚に過ぎない。さらに言うなら、安直な逃げだ。
「なんだか、悔しいですね」
 長い指を鎖骨から胸筋へと滑らせながら、加煎は呟いた。
「なにが」
「私相手では、断る手間もかけないんですから」
「断ってほしかったか?」
「……いいえ」
 自分が断っていたら、こいつはきっと一睡もしなかっただろう。だれかべつの相手を房に誘い、薬を使って朝までその行為を続けていたはずだ。
「だったら、いいじゃねえか」
 胸をまさぐる手を取って、指先に口付ける。薬草の灰汁で薄墨色に染まった指先が、ぴくりと動いた。
「おまえにはセキヤしかいねえし、俺もそうだ。だから……」
 少しぐらい、甘えてもいい。自分たちはどうしたって、刃のように強くはなれない。セキヤを信じ、ひたすらに待つ。そんな強さは、ない。
「いいんですね、これで」
 ほっとしたように、言う。
「ああ。いいさ」
 ふたりとも、このままで。



 欲したのは加煎。応えたのは醍醐。
 加煎の冷たい体に熱を与えられるのは、醍醐ただひとりだから。



   (了)




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