どんどん迫ってくる。
 これは、なんだ?
 頭で考えようとした。でも、上手く考えられない。
 熱い。身体が火みたいだ。思わず頭を振る。
 これは、夢なのだろうか、本当に。
 あいつに、抱かれている夢。
 いつもの圧迫感と、繰り返す振動、息苦しさ。
 もう一つある。別のもの。
 それが熱よりも思考を侵食してゆく。 
 これじゃ、まるで・・・みたいだ。
 こわい。自分が自分でなくなりそうで。
 助けて、サ・・・・・。







羽化   
by真也







 濡れたままで、寝てしまったのがいけなかった。
 明け方、おれは悪寒に震えた。腕が、膝が、節々が痛くて身の置き所がない。
 起き上がって着替える気力もなくて、毛布を巻きつけ、小さく丸まった。
 もう少しすれば朝日がさす。少しは温かくなるだろう。朝が来るまでのしんぼうだ。
 そう念じて、身を固めて耐えた。
 やがて朝が訪れた時には、身を震わす悪寒はなくなっていた。そのかわりに、高熱がおれを襲った。
 熱い。頭がぼやける。眼を開けたら、天井が回った。
 なにか、薬を飲まないと。それに、喉が渇いた。
 水を飲むため起き上がろうとする。力が入らない。手が、膝が震える。
 上体をなんとか起こした。ふらつく。目が霞んでよく見えない。
 立ち上がろうとして床に倒れ込んだ。足が縺れて、上手く動かない。
 水。水が欲しい。そう思いながら手を伸ばす。もう立ち上がる力がない。眠い。
 諦めて、おれは手を下ろした。背を丸めて、横たわる。床の冷たさが気持ちいい。
 いいや。今日は、休みだから。
 そう思っておれは眼を閉じた。





 誰かに抱き上げられた気がする。ゆっくりと、下ろされた。ベッドの上だ。
 だるい。でも何か飲みたい。右手で探る。 
 ひんやりとしたものが手に触った。これは、手?
 右手を包み込んでいる。
 額にそれがあてられた。気持ちいい。
 何か欲しくて口を開けた。冷たいものが、流し込まれてむせる。
 胃が、受けつけなくて上手く飲めない。
 頭が、痛い。誰かがいる。まぶたが重くて眼を開けられない。
 唇に、柔らかいものが触れた。歯列を割って動くものが入ってくる。それと、水。
 少し生ぬるいが、美味しかった。
 間近にあった気配が遠ざかろうとしている。おれは何か、服のようなモノを掴んだ。待って。
 もっと。もっと、欲しい。
 再び口を開けた。流し込まれる水。のどをごくりと言わせて飲んだ。
 もう一度、先程のものが侵入してきた。苦い。丸くて小さな物を喉の奥に押しやられる。むせそうになって、それに舌があたった。とたんに絡みついてくる。息が、できない。手に掴んだものを引っ張った。
 瞼に、頬に、首筋にそれが触れてくる。熱い身体に冷たいそれが気持ちいい。
 誰かが、おれに、触れている。掌の感覚。唇の感覚。
 何故だろう。安心する。
 誰かに身体を触ってもらったのって・・・そういえば、サスケと昨日、した。
 あまりに冷たくて、寒くて、苦しくてそう感じなかったけど。
 いつだったか・・・そう。同じサスケとでも、あの日は違った。初めてで、たしかにつらかったけど、その分あいつが優しかったような気がする。耳元で『忘れるな』って、囁いた。
 ああ、そうだ。
 どうして忘れていたんだろう。あいつは、『忘れるな』と言ったんだ。
 初めて知る感覚に振り回されて、気にとめる余裕もなかった。
 そうか。忘れて欲しくなかったんだ。
 だから・・・・。
 体中を彷徨っていた掌が、そこに、触れた。
 なんだろう。いつもと違う。そんなに苦しくない。
 腰が、背筋が疼く。何?これは。
 熱で浮かされているんだろうか。
 目を開けたいけど、眠い。それに、ちょっとこわい。
 目が覚めて、ひとりだったら嫌だから。
 サスケが行っている間、よく夢をみた。
 こんなふうにしてて、驚いて起きた。でも、いつも一人だった。
 ・・・・寂しかったんだ。おれ。
 これは、あの夢だ。
 夢なら、もう少し、覚めないで。
 


 背が弓なりになるのを感じた。
 おれの中に、滑り込んできた。
 いつもは熱く感じるのに、今日は、同じくらいだ。
 熱が、上がってるのかな。



 どんどん迫ってくる。
 これは、なんだ?
 頭で考えようとした。でも、上手く考えられない。
 熱い。身体が火みたいだ。思わず頭を振る。
 これは、夢なのだろうか、本当に。
 あいつに、抱かれている夢。
 いつもの圧迫感と、繰り返す振動、息苦しさ。
 もう一つある。別のもの。
 それが熱よりも思考を侵食してゆく。 
 これじゃ、まるで・・・みたいだ。
 こわい。自分が自分でなくなりそうで。
 助けて、サ・・・・・。



 言いかけて、その言葉を飲み込んだ。
 偶然開いた目の前には、サスケの顔があった。
 そのまま、意識が、白くなった。





 気がつくとベットに寝ていた。
 服も濡れた毛布も、乾いたものに取り替えられていた。
 ゆっくりと起き上がる。頭は痛くない。熱も、下がったようだった。
 ふと気付く。腰のあたりの鈍い痛み。情事のあとのような。
 でも、なにも伝ってはこないし。やっぱり夢だったんだろうか。
 昨日、あいつとちゃんと話せなかったし、あんな事になったから・・・・。
 いろいろ、思いだしてしまった。
 何か飲もうと立ち上がって、目が止まる。
 テーブルに、コップが一個。



 おれは昨夜から何も飲んでいなかった。
 


 あれは・・・・。



<END>



『追尾』へ続く




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