立つ鳥になるために
        by真也



ACT 2



 誰かが家に駆け込む気配で、目が覚めた。
 何も取られるほどのものなんてないから、鍵は掛けていなかったのだ。
 とっさに起き上がってクナイを構える。物陰に隠れて侵入者を見て、唖然とした。
 ナルトだった。
 走ってきたのか息が荒い。玄関に仁王立ちしていた。
「・・・・ナルト?」
「サスケ!・・・・行かなかったのか?」
 あいつの言わんとすることが分からず、ただ、見つめてしまう。するとバツが悪そうに話し出した。
「サクラが、暗部の集合日が一日早くなったって・・・あいつ!」
 言いかけて、真意に気付いて黙る。
「悪い。勘違い」
 そのまま踵を返した。
「待て」
「じゃあな」
「逃げるのか」
 ナルトの動きが止まった。肩が細かく震えている。両手の拳が、固く握られた。
「それは・・・・そっちだろ!」叫んで、睨み付ける。
「俺は違う。暗部に行くのは強くなる為だ」
「どうしてっ」
「必要とされたいからだ。お前に」
 碧い目が、丸く見開かれる。
「俺は、お前が必要だ。そして、俺自身もお前にとって必要な存在でありたい」
「なんで、もっと早く・・・・言ってくれなかったんだよっ」
「・・・・たぶん、怖かったんだと思う」
 言葉が出た。ナルトはそこに固まったまま、俺を見つめた。



 どうして恐れてしまったのだろう。
 暗部に行くことも、強くなることも、全て自分で決めた。
 何を恐れたのだろう。未知の世界。そこで生きること。
 いや、ちがう。
 恐れたのは、離れること。
 あいつの中から、俺が消えてしまうこと。
 


 たった一人、あいつだけなのだ。俺にくれると言ったのは。俺が与えたいと思ったのは。
 だから、失いたくなかった。


 嫌われたくないから、二の足を踏んでいた。
 でも、今はそれよりも、忘れられたくない。
 だから、刻む。あいつの中に。
 それがどんな形であっても。消えない印を。





 俺は卑怯な手段を使う。
 順を追うだけの時間は残されていないから。





「ナルト、お前は俺に何かしたいと言ったな」
「ああ」
「俺に何かあげたいとも」
「うん。言った」
「・・・くれよ」
「えっ」
「欲しいんだ。今」
「サスケ?」
「俺が欲しいものを、くれ」
 ナルトは分からない、というように首を傾げる。
 俺は、あいつを手招いた。





 四畳半ほどの狭い空間で、二人向かい合って座る。

「逃げるなよ。分かってるだろうな」
「わ・・・・分かってる」
「じゃ、目、つぶれ」
「な、なんで」
「いいから。つぶれよ」
 俺に言われて、ナルトは渋々目を閉じた。金色の睫が姿を現す。思ったよりも長いそれが、細かく震えている。
 口はへの字に結ばれて。その下ではきっと、がっちり歯を食い縛っているのだろう。
 こいつ。俺に殴られるとでも思ってるんだろうな。
 右手で顎をつかむ。ナルトの身体が波打った。
 俺はやんわり微笑んで、そのままナルトに口づけた。



 いきなり後ろに押し倒すと、驚いて目を開けた。その隙を狙って、緩んだ唇の間を割る。舌を差し入れると反射的に噛まれた。
 いったん唇を離し、視線で『約束だろ』と促す。すると渋々、口を開いた。
 唇を重ねて舌を、口腔内を味わう。息苦しいのか胸を押し返されたが、構わず押さえつけた。
「んんっ」
 かぶりを振る。息を開放したら、思いっきり睨まれた。
 いくら睨んでも、無駄だよ。
 お前が逃げないことを、知っているから。
 俺は目で笑って、首筋を吸い上げた。
『こんなことに使われてもねぇ・・・・』カカシの声が聞こえる気がする。
 初めてのことだったが、やりかたは身についていた。
 写輪眼って、便利だな。
 わけもなく、不埒なことを考えていた。



 力まかせに腰を進めると、ナルトの背中が綺麗にしなった。身体を繋げたまま耳元に顔を寄せると、噛み締めた奥歯の間で何やら毒突いている。腰の手はそのままに身体を揺らせてやったら、喉がのけぞった。



 忘れるなよ。
 そのまま、身体を動かす。声にならない音だけが聞こえ始める。
 どんな形でもいいから、忘れるな。
 夜具を掴む爪先が、白く染まってゆく。
 憎んでも、いいから。
 さらに激しく、俺を刻みつけた。





『立つ鳥、後を濁さず』か。まさにその逆だな。
 そんなことを、つらつらと考えていた。
 暗部の衣裳にも着替え終えた。あとは面をかぶるだけでいい。
 振り向くと、ナルトはまだ夜具にくるまっていた。顔も出してない。いや、出す気もないのだろう。起きているくせに。
「二年だ」
 俺は宣言する。
「二年後に文句は聞いてやる。俺は行くぞ」
 応えを待たずに、戸を閉めた。息を吸い込み、ぐっと止める。
 上りかけた朝日の中、俺は集合場所へと向かった。



<END>



『越冬』へ続く


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