それぞれの必要
  by 真也





ACT 2



 特訓は続いた。
 最初は余裕だったナルトやサクラへのメニューも日毎にハードになり、ついには三人とも動けなくなり、カカシに送ってもらうという事態もあった。しかし、少しずつ俺達はそれに慣れて、術や洞察力、戦い方、あらゆることを学んでいった。
 そして、カカシが指導する最後の日が来た。
「今日は自習。と、俺と面談」
「面談?それ何だよ」
「そういう名前の勝負でもいいよ。ナルト、サクラ、サスケの順番ね」
「おれ一番だってば」
「じゃ、あっちの木ん所で待ってるから。一人ずつ来くること」
と言って、カカシは消えた。
 不審げな俺と呆れ顔のサクラをよそに、ナルトが喜んで走って行った。



「サスケ君の番よ」
 サクラに起こされた。まずい。眠っていたのか。
「ナルトは?」
「先生の用事で、どっか行ったみたい」
「お前は、どうするんだ」
「そうね。もう少し時間もあるし、ここにいるわ」
「時間?」
「いいのよ。さ、カカシ先生が待ってるわよ」
「ああ」
 俺は木の下へと向かった。
 カカシは木にほど近い所にある岩に腰かけていた。風が、奴の髪を揺らせる。銀色のそれは、陽の光を写して白く輝いている。そして、蒼い瞳。唯一、表に出されたそれは、静かに周りの風景を映しだしていた。
「サスケ?ま、そこ座ってよ」
 俺は黙って、カカシのすぐ近くに腰かけた。
「話すことなんて、ないぞ」
「じゃ、戦うか?」
「それもいいな。でも、あんたはあるんだろ。俺に言うこと」
「相変わらず、察しがいいな」
 右目だけを細めて、にやりと笑った。
「どうして前線、行くって決めたんだ?」
「うーんと。俺って上忍だしね。ここでのんびりするのもいいけど、戦うのもいいかなって」
「死に場所、探してんのか」
「お前。失礼だよ。俺は戦いにいくの。ちゃんと・・・『人』としてね。行く所が戦場なのは、俺が一番必要とされているところだから」
「必要?」
「そうだよ。俺ほど人殺しが上手い奴って、そうはいないからね」
 何気ない言葉。でも、一番それまでの奴を表した言葉。事実、そうだったのだろう。胸が痛んだ。
「でもね。今度はちょっと違うんだよ。俺はね・・・・『殺し』に行くんじゃなくて、『戦い』に行くんだ。わかるか?」
「・・・ああ」
「お前は聡いな。ナルトに説明するのは骨が折れたよ」
 少し、困ったように言って言葉を継ぐ。
「あいつのことだけが、心配だった」
「過保護だな」
「ああ・・・・でも、お前がいるものな」
「カカシ」
「わかるよ、その位。伊達じゃないのよ。・・・だからね」
 そう言って奴は額当てを外した。顔の半分以上を覆っていた覆面を下に引き降ろす。端正な男の顔が現われた。右の濃紺、そして左の銀糸の中から覗く、紅。
「これでね、確かめさせて欲しいんだ。お前が大切なものを守れるかどうか」
「・・・・いいのか。あんたの中が、見えちまうぞ」
「それはお前も一緒でしょ。俺の中から、必要なものだけ生かせばいい」
 この上もなく、優しい微笑み。あんた、そんな顔も出来たんだな。そして、あの人もそれを知っていたんだ。だから・・・・あれだけ心を尽くしたのだ。あんたを、愛おしんだんだな。
 俺は目を閉じた。そして再び開く。写輪眼。奴と俺を繋ぐもの。
 奴の眼前に立つ。紅い瞳で、見つめあった。







 奴の全てが、流れ込んでくる。全てが。







「お前も結構、大変なのね」
 額当てを付けながら、奴が言った。
「・・・・あんたに言われたくねぇな」
「ま、似た者同志ってことで」
「・・・ちっ」
 一つだけ、言わなくては。俺は決心して、奴を正面から見据えた。
「これだけは言っておくからな」
「なによ」
「俺は、俺なりのやり方でしか、あいつを守れない。全てを守りきることもできない。・・・まだ、俺には足りないものが多過ぎるから」
「ああ。お前はお前の方法を取ればいい」
「・・・カカシ。俺は暗部に行く。前から決めていたんだ」
 精一杯、顔をあげる。目の前の男を見続ける。視線を、反らさずに。
 奴は、動じなかった。まるで、予測の範囲だとでも言いたげに右眼を細める。
「あそこは厳しいぞ。ちゃんとした『心』を持つお前なら尚更だ。しかし」
 一息置いて奴は続けた。肩に手を置かれる。温かくて、大きな手。
「お前なら、大丈夫だ。サスケ」
 銀髪の上忍はそう言って去った。
 俺は後ろ姿をただ、見つめていた。その、大きな背中を。



 

『人』として、戦う。哀しみも苦しみも、怒りも。
 己の無力でさえも。
『人』として、それらを抱いて生きてゆく。
 己の必要とされる場所で。





「カカシ先生、行ったの?」
 サクラだった。サクサクと草を踏んで、歩いてくる。
「ああ。言いたいこと言ってな」
「そうね。確かに」
 首を傾げて、くすりと笑った。
 薄桃の髪が靡いている。短い言葉で察してくれる、俺の仲間。
「実はね。私、これからデートなの」
「誰とだ」
「ふふふ。誰だと思う?」
「・・・・わかんねぇよ」
「サスケくんて、結構鈍いのね。リーさんよ」
「あいつ、か」
「そうよ」
 一生懸命な目。意志の強い口元。ひたすら努力する姿が浮かんだ。
「この間さ。ナルトを助けたサスケ君見てね、思ったの。かなわないなって」
「はあ?」
「知ってる?サスケ君。ナルト助けたの二回目なのよ。どっちも命がけ」
「そうだったか」
「なかなかできないわよ。・・・・好きなんでしょ」
「!・・・ち、ちが・・・」
 わかるわよ。と、サクラは笑った。あの、少し困った顔で。
 少し大人に見えた。 
「でね。思いだしたの。私をそんな風に、必死で守ってくれた人がいたって」
「・・・・・」
「サスケ君、知らなかったわね。受印でそれどころじゃなかったもの」
「・・・そうか」
 さらり、風が吹いた。髪をかき上げながらサクラが言った。
「今度はね。私が彼を助けたいの。なんでもいい。彼の為に、何かしたい」
 奇麗な微笑みだった。優しくて。心を満たすような。
 俺はひょっとして、惜しいことをしたのかもしれない。




「おーい」
 ナルトだった。全速力で駆けてくる。
 いつでも一生懸命だ。無器用ながらも、精一杯。
 愛しいと思った。素直に。
 なれるだろうか。いや、なりたい。
 お前の『必要』に。
 与えられるものは、全て与えて。与えてくれるものは、全て受け取って。
 お前と、生きたい。
 
 唇を結んで、両手を握り締めて。俺は見つめた。
 あいつの姿を。



<END>
 



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