絶え間なく続いた。
 もう、痛みさえも感じない。
 揺さぶられて、水に打たれて、息ができない。
 なのに、あいつを受け入れたそこだけが、熱くて。
 どうしてこんなことになったのだろう。
 今は、言葉を発する余裕さえない。
 なぜ。
 なぜ。
 なぜ。

 こんなはずじゃ、なかったのに。






迷走飛行   by真也







 行きと同じく一週間をかけて、おれ達は里にたどりついた。今回の任務は余程の重要性があったらしい。皆に火影様の言葉と、僅かではあったが金一封がでた。あの小さな城一つ落として、この長きにわたる戦いが終わるとも思えないのだが。
 解散の声が掛かった。皆、バラバラと散ってゆく。
 おれはサスケを探した。たしか、上忍の立つ位置にいたから、あの辺り・・・。いた。
「サ・・・うちは上忍」
「なんだ」
 サスケが振り向く。いつもと変わらぬ表情で。
「あのさ。話したいことがあるんだ。今日、時間もらっていいか」
「何の話だ」サスケの片眉が、僅かに上がる。
「ここじゃ言えないから、おれの家かおまえん所で」
「・・・・いいだろう」
 ほっとした。歩き出そうとした時、呼び止められた。
 サクラだった。
「ナルト。それにサスケ君も。ご無事の帰還なによりです」
「おかげ様をもちまして。サクラ、おまえアカデミーはどうしたんだ?」
「今日、休みをとったのよ。ナルト、サスケ君もよかったら、これからお昼でも食べに行かない?」
「いいなあ、久しぶりで。サスケ、行こうか?」
「・・・・・話があるんじゃないのか」
「ああ。でも、せっかく誘ってくれてるし」
「後回しに出来る話なら、もういい」
 くるりとサスケが踵を返した。そのまま歩き出そうとする。
「あっ、待って。サスケ君とも話があるのよ」
「なんだよ」
 振り向いて、横目で見下ろす。少し、苛立っているような感じを受けた。
「もうそろそろね、ちゃんと話し合いましょう。いつまでもこんなこと、続けてちゃだめだわ」
「こんなことって・・・・何だ」
 サスケが向き直る。視線が鋭くなった。何故?
 サクラもその視線を真っ向から受けている。
「あなたが、ナルトにしていることよ」
「!」
「サクラっ」
「もう喧嘩とかそういう範疇じゃないでしょ、サスケ君のしていること。ちゃんと、話し合いましょう」
「余計なお世話だ」
「でも、ナルト、痩せてきているし。身体を壊しては元も子もないわ」
「サクラ。おれは大丈夫だって」
「じゃあ、ナルトはそのままでいいの?」
 言葉に詰まった。サクラ、なにを何処まで知っているんだ。
「・・・・・奴が、言ったのか」
 短く吐き捨てた。
「リーさんも、謝りたいと言ってたわ。偶然とはいえ、失礼なことをしたと」
「奴もくるのか」
「おい、おれなんのことだか・・・・」
「覗き野郎に用はない」
「サスケ君!」
 言い捨て、サスケが去ろうとした。急に現われた影が押し止める。
「サスケさん!非礼は詫びます。どうか、サクラさんのいうことを聞いて下さい」
「誰にものを言ってるんだ」
「お願いです」
「うるさい!」あいつの右腕が動いた。とっさに飛び出す。左頬に衝撃。はずみで上体が流れた。
「ナルト!」
「ナルトさん!」
 おれはリーをかばったまま、サスケを見上げた。
 サスケの射るような視線と絡み合う。
「・・・・何を、している」
「いくらなんでも、殴るなんてやり過ぎだ」
「そいつが、何をしたかわかっているのか」
「だからって、手をあげる理由にならない。話し合うならおれ達二人ですればいい」
「いい度胸だ」
 あいつの顔が、不敵に歪んだ。そのまま顎をしゃくって歩き出す。
「ナルト!」
「だいじょうぶだよ。今日はごめん。もう帰ってくれよな。二人で話すからさ」
「出過ぎたことをしてしまったようですね。すいません」
「いいんだ。最初から話す予定だったし」
「ナルト、ごめんね。・・・・・気をつけてね」
「心配すんなって。サスケなんだから。じゃあ」
 二人を背に、おれはあいつを追った。





 細い山道を、サスケは無言で歩き続けていた。どこまでいくのだろう。
 サクラたちには悪いけど、まずいことになったと思ってしまった。せっかくいい雰囲気で任務から帰ってきたのに。逆らった形になってしまった。
 拳の一発や二発は、覚悟しよう。そして、あの行為も。
 気がおさまったら、話を聞いてくれるかもしれない。
 水音が聞こえてくる。小さな滝の所にやってきた。ここで、何をするんだろう。
 あいつは立ち止まって、なにやら考え込んでいるようだった。
「サスケ、あの」
「お前はどちらなんだ」
「えっ」
 思わず、聞き返す。何を言っているのかわからない。
 サスケが迫ってきた。両肩をがっしりと掴まれる。
「拒絶するかと思えば抵抗しない。嫌がっているくせに俺の望むことをしようとする。お前は何を考えてるんだ!」
「サスケっ」
「俺を、嘲笑っているのか?同情しているのか!」
 肩をガクガクと揺すられる。指先に込められた力が更に強くなった。痛みに顔を顰める。
「何とか言え」
「サ、サスケ。何を言ってる・・・か、わから・・・」
 皆まで言う間なく、投げ捨てられる。滝壷に落ちて、水を飲んだ。そんなに深くない。なんとか体制を立て直そうと四つんばいになった。ほどなく、後ろ首を掴まれ、水中に押し下げられた。
 苦しい。息が出来ない。
 なんとか頭を上げて息をしようと試みた。が、その間もなくまた水に頭を突っ込まれる。
 身体が酸素を求めている。おれはがむしゃらにもがいたが、押さえつけた手はびくともしなかった。
 意識が霞む。手の力が緩まった隙を狙って、どうにか頭を上げた。気管に水がはいって、激しくむせる。ぐいと腕が引っ張られた。そのまま滝へと引きずられる。
 滝に身体を押しつけられた。冷たい水が降り注ぐ。両手を滝の裏に付いて立たされた。
 水が身体を取り囲んで、時々息が出来なくなる。下ばきに手が、かけられた。なんとか逃れようと、身を捩る。
 指が中をかき回した。身体が冷えて、殊更に苦痛を感じる。構わず押し込んできた。背がのけぞる。落下する水が上を向いた顔を容赦なくたたきつけた。また、水が入って苦しい。
 倒れないように身体を支えるのが精一杯だった。打ちつけられる動きにうめき声も上げられない。
 頭が、空っぽになってゆく。





 絶え間なく続いた。
 もう、痛みさえも感じない。
 揺さぶられて、水に打たれて、息ができない。
 なのに、あいつを受け入れたそこだけが、熱くて。
 どうしてこんなことになったのだろう。
 今は、言葉を発する余裕さえない。
 なぜ。
 なぜ。
 なぜ。



 こんなはずじゃ、なかったのに。



 手足が痺れてきた。体重が支えられない。
 酸欠で頭が痛い。
 なんとか意識を保とうとしたが・・・・・ついに、おれは、崩れ落ちた。





 どさりと投げ出されて身が覚めた。頬に毛布が当たる。
 ここは・・・ベッドの上?
 身を起こそうとして、だるさと痛みに呻いた。
「辛いか」
 サスケの声だった。
 おれはベッドに両手をついたまま、僅かに顔をあげる。
「ならば一言、『やめてくれ』だ。それで済む」
 横を向いたまま言い捨て、あいつの姿は消えた。



 言わない。
 言ってしまったら、サスケを永遠に失ってしまう。
 だから、言わない。
 おれが本当に言いたいのは・・・。



 再び目が霞んできて、真っ暗になった。


<END>



『羽化』へ続く




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