今、鳥の人が、眠る男を連れてゆく。









鳥の人    by真也  









 林の中を、男達は駆けぬけていた。急がないと、追い付かれる。
 行く手を阻むかのように、クナイが右横の木に刺さった。左へ避ける。よし。左側は開いているようだ。
「うわぁっ」
 しんがりが捕まった。後ろの気配が二つ、消えた。
 もうすぐだ。もうすぐ、この林を抜けて平野を行けば、味方の陣へとまぎれ込める。
「そっちへは、行かせねぇよ!」
 突然現われた金髪の忍。同じ姿が複数いる。影分身か?
 投げられたクナイをかわし、振り下ろされた小柄を小刀で受けて跳んだ。いける。
「なにっ」
 目の前に開けた平野に一人の青年。黒髪に黒い眼。あれは、火遁の印。
「サスケ!いったぜ!」
「よし、上出来だ」
 印を組む手が目粉しく動く。闇の瞳が カッと開いた。
 次の瞬間、渦巻く炎。地獄の業火のようにまとわり、襲いかかる。
 声をあげる間もなく、男達は焼きつくされた。






「これで最後だぜ」
「おい。全部俺にやらせただろ」
「まさか。おれだって影分身で追い込んだじゃないか」
「きちんと仕留めずに走らせて、こっちへやったのはどこのどいつだ?」
「バレてたか。ま、いいだろ」
 ナルトは頬を掻きながら笑う。俺は腕を組んだまま、ため息をついた。
 今回、俺達の任務は落ち忍の後始末。それも、今ので全部。予定通り、里に帰れそうだ。
「結構簡単だったな。上層部もたまには楽なの、回してくれるんだ」
「だいたい、いつもお前がややこしくするんだろうが。事後処理させられる身にもなってみろ」
「だって。そりゃサスケのほうが先輩上忍だし。仕方がないって」
「ちっ、こんな時だけ先輩扱いか。一年しかちがわないだろ」
「ケチくさいの。暗部返りの名がなくぞ」
 金の頭に一発、拳骨を落とす。
「いてぇなっ。暴力反対」
「うるさい」 
 また一つ、右手を振った。



「これを使うまでもなかったな」
「写輪眼か?いいじゃないか。疲れんだろ、それ使うと」
「まあな」
 ふと気付く。
「・・・・ナルト。何か聞こえないか」
「えっ」
 耳鳴り。微かに聞こえてくる。だんだん明確な音になって。
 その時、それは、やって来た。



「うわあぁぁっ!」
「サスケ!」
 頭を、両眼を熱が走る。すさまじい衝撃。
 流れ込む、夥しい情報。



 視える。



 山々。黒く焼けただれた岩場。流れ落ちる、血。
 座り込む男。ちぎれた足。銀色の、髪。
 蒼い瞳と焔の眼。
 朱髪の鬼。
 振り下ろされる刀。
 待ち続けた終結。
 安堵。
 想い。



 そして。



 黒髪をなびかせ、姿を現わした。
 黒い瞳の鳥。
 抱き上げて、羽ばたいた。






 ナルトが何か言っている。耳を苛む音で、聞こえない。
 膜がかかったように、遠い。
 ああ、溢れてくる。
「  」
 聞こえた。
「おいっ!」
 大丈夫だ。
「どうしたんだ!」
 ただ、止まらない。
「サスケ!」
 涙が。



 写輪眼が伝えているのか。
 この眼を持つ男のことを。
 最後、なのか。



 紅い眼は泣き続けた。
 俺の意志とは関係なく。



「サスケ、その眼」
「・・・なんでもない」
 何気なく、見上げた。そして見つける。
 鳥。
 優しい瞳をして、蒼い空を飛んでゆく。
 それは、一瞬視えて、消えた。
 俺は目を閉じた。



「大丈夫か」
「ああ」
「なんなら、今日はゆっくり休んでさ。明日、里に入っても・・・」
「いや。帰る」
「えっ」
「帰るぞ。すぐ立つ」
「・・・・わかった」





『はたけカカシ』消息不明の報告が入ったのは、俺達が里に入った翌日のことだった。



end




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