■『燃える椿の下で』番外編(ACT32、33対応)■
再会の瞳 by真也
夕暮れ。
何の変哲もないこれに、どうしてあんなに焦がれてたのかしらね。
縁側に腰かけながら、アタシは苦笑いを零した。木の葉の里を離れて二十数年、何度も夕日を眺めてきた。里のそれを心に描きながら。
瓢箪から駒ってところね。
複雑な思いに顔を歪める。そう。アタシの人生は終った。終わったはずだった。あの男、うちはイタチに滅された瞬間に。でも今、アタシはここにいる。ここで、木の葉の夕日を眺めている。
確かにサスケ君の身体を狙ったこともあったけど、こういう形で手に入るとはね。
自分でも予想していなかった現実。皮肉なものね。本来ならば、時限印を介して遠隔操作し、徐々に木の葉の中枢に入り込むつもりだった。そして、機が熟した瞬間、うちはサスケを暴走させる。それで全てが終わるはずだった。でも。
『あんた、何でこんなことしてるんだ?』
まっすぐ見つめて言った。明るい、青色の瞳。
『あんたは里を憎みきっていない』
散々アタシに嬲られ、痛めつけられてきたくせに、あの子は断言したのだ。
まいっちゃうわね。
正直に思う。本当。あんなのが出てきたら、叶わない。馬鹿が何重にもつくお人好しには。
ああいう奴が『里の為』なんて言って、喜んで犬死にするのよね。
記憶の中にしまった、住人達の顔が浮かぶ。そうよね。アンタ達、みんな犬死にだったものね。そしてたぶん、あの人も。
『もう、やめぬか』
この里の長であり、かつて師だった男は言った。アタシを育て、アタシを見なかった人。優しすぎて、残酷すぎた人が。
『おぬしがそうなってしまったのは、わしの責任じゃ。全てわしに向ければよい。サスケにもナルトにも、関係ない』
憎んでもくれないのね。こんなに苦しめているのに。そして、その溢れる憐憫の心で、アタシの居場所をなくしてしまう。
あなたは火影。里の礎。心の中にはいつも、里を住まわせていた。
『このくらいの結界で封じられるおぬしでもなし。本当はわかっておるのじゃろう?ならば、里人を巻き込むのはよさぬか』
あなたの中に、アタシは入れないのね。入れたかったのに。『里』とは全く無関係な、ただの『アタシ』を。あなたが一番苦しむ方法を使ったのに。つけた傷にさえ、アタシの入る場所はない。
やっぱり、だめなのね。
アタシは一つしか望んでいなかった。その一つがどうしても欲しくて、ここまで来てしまった。あの夜から。
『行くの?』
里を出るアタシに、その青年は言った。月光の中、金の髪を輝かせて。
『一応、言うけどさ。やめる気ない?』
向けられた空色の瞳。見透かされているようだった。昏い道だとわかっていて尚、進まずにはいられなかった自分を。
彼だけだった。アタシを見つめてくれたのは。
まっすぐに反らさず、心に切り込んでくれたのは。だけど。
そうして欲しかったのは、彼ではなかった。
『じゃあ、次に会った時は、敵同士ってことだねぇ』
銀髪の子供を抱き上げて、彼は言った。アタシは否定しなかった。それは事実だったから。
去り行くアタシを、彼はずっと見送っていた。手向けのように。そして、幾年。
結局、彼とアタシは刃を交えることはなかった。九尾の襲来。それが、彼の命を奪ったから。里を守る為、彼は英雄になったのだ。
『四代目は、お前を待っておった』
師の言葉を思いだす。きっと知っていたのだろう。あの夜のことを。彼が、アタシを見送ったことを。わかっていても、引き止めなかったのだ。
『ナルトはあやつの形見じゃ。気付いておったか』
気付かないはずがないでしょ。あれだけそっくりなんだから。でも、びっくりしたわ。同じ目をしているんだもの。
信じる瞳。信じきれる瞳。
大馬鹿でお人好しで、羨ましくてたまらないもの。そして、何よりも惹かれる。
アタシさえも惹きつけていた瞳。熱くて、太陽みたいな。
もう一度見られるとは、思っていなかった。
だから、そう悪くもないわよね。アタシの人生ってやつも。里の夕日も見られたし。
あの目をサスケ君にやるのは惜しい気もするんだけど、やっと立ち上がってきたみたいだし。あとは、まだお子さんのあの目を、ちゃんと開いてやるだけね。
もう少しの間、意地悪しないと。アタシは犬死には嫌だから。
黄昏。辺りが暗くなってくる。そろそろ、部屋に入らなければ。
もうすぐあの子がやってくる。もう十分な力をつけたくせに、アタシに仕掛けて来ないひよっ子が。今、何か下らないことで迷っているらしい。お馬鹿さんね。さっさと封じてしまえばいいものを。
待ってあげてもいいけど、あと二、三日ってところが限界よ。そろそろカカシや、他の奴らが動きだすから。まあ、この『うちは』を道連れに滅びるのも、悪くないからねぇ。
そんなことを考えながら、アタシは奥座敷へと向かった。すぐ外には、カカシとあの子の気配が近づいてきていた。
アタシの人生は、終わってない。
終わらせてあげない。
今は、まだ。
終わり
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