『太陽の呼ぶ声』
by真也

ACT7



 太陽の呼ぶ声がする。
 触れるのが精一杯だと思っていたのに。
 何度も、何度も呼んでいる。
 聞き間違うはずもない、俺の名前を。




 誰かが呼んでいる。
 それを認識しようとした瞬間、後頭部に衝撃を受けた。
「・・・・・ってえ」
 寝起きを起こされたような感覚。疼く頭を押えながら起き上がった。目を開く。
「サスケ!」
 求めたものがそこにある。あいつが俺の名を呼ぶ。それで十分だった。
「呼んでくれたんだな」
「あったりまえだろっ」
 微笑みながら言えば、大きな声で返された。それさえもうれしい。あたりまえのことだと思えるから。
「おまえこそありがと。おれの言うこと聞いてくれて」
 改まって礼を言われる。どうも苦手だ。お前は文句を言ってる方がいい。 
 照れ隠しに周りを見回せば、見慣れた部屋。俺の部屋ではない。どこかと訊いた。
「おまえん家。たぶん、離れだと思う。母屋は奴を倒した時、全壊しちゃったから」
 返事に驚く。ナルトが奴を倒しただと?
「ああ。時限印、解いたんだ」
 時限印。それをお前が解いたというのか?あの、兄を苦しめていたものを。思わず見つめてしまった。
「そうだよ!何か文句あんのか?」
 ばっちり睨み返される。今までを振り返った後、首を振って認めた。
「そうだろ?おれ、頑張ったんだぜ」
 そうだな。お前はよくがんばった。俺にはもったいないくらいに。謝ろうとしたその時。
「ストーップ!謝るのはナシだからな。これは、おれがやりたくてやったんだ」
 俺の言葉を遮り、ナルトが言った。戸惑う。でも、それではすまない。
「なら、約束果たせ。それと一楽のラーメン一ヶ月分。それでチャラ」
 びしりと言われる。もちろん約束は果たすつもりだ。ラーメンだって奢る。だけど、それだけでは到底見合わない。どう告げようか迷った。ぐい。胸もとが掴まれる。碧眼が迫ってきた。
「一度しか言わないからな。よく聞けよ」
 宣言される。 
「おまえが戻ったんだから、それでいいの!」
 断言。それ以上、何もいらないかのような。何かが込み上げてきた。
「わかったな!」
 念を押される。その時思った。いいのだ。あいつはそう決めたのだ。だから・・・・。
 張り詰めたものが崩れてゆく。粉々に飛散して。声を絞り出して答えた。あいつの手。頬が包み込まれる。
「『前払い』のこと、覚えてるか?」
 忘れていない。忘れなどしない。お前が言ってくれたのだから。
「言って・・・くれよな。知りたいんだ。おまえのこと全て。だから・・・・」
 聞いてくれると言うのか?俺のことを。言ってもいいのか。いやじゃ、ないのか?
 唇が近づいてくる。触れた。温もりが流れてくる。あいつの熱。開けられた口に、舌を流し込んだ。


 欲しい。
 もっと、欲しい。
 

 満足するまで与えてもらった口づけの後、ナルトが訊いた。あの日のことを。うちはの、兄のイタチのことを。
 

 何も隠さない。
 隠さなくて、いい。


 俺は事実を話し始めた。少しずつ言葉を紡ぐ。懺悔を。後悔を。あいつは俺の傍らで、じっとそれを聞いていた。
「もういいってば!」
 自責する俺を抱きしめ、ナルトが言った。
「責めんなよ・・・。おまえの兄貴、ちゃんとわかってるよ。だから・・・」
 力が込められてゆく腕。行き場のない思いが融ける。身体の震えが、止まった。
「・・・・ありがと」
 碧い瞳が覗きこむ。潤んで、今にも泣き出しそうな目。きれいだと思った。
「あの時、そのことが聞きたかった。おまえが苦しんでるのはわかってたから」
 言えるわけないと思っていた。弱くて醜い部分など。誰にも見せられないと思っていた。なのに、おまえはその部分を受け止めようとしてくれたのか。
「でも、おれわけわかんなくて、拒むしかできなかったんだ。今ならわかる。自分が何を思い、どうしたかったのか・・・・・」
 ナルトの手が伸びる。首が抱かれた。引き寄せられてゆく。床の上に倒れ込んだ。
 あいつが見上げている。誘う目。その時俺は、理解した。あいつが本当に求めるものを。
「・・・・いいのか?」
 信じられなくて尋ねた。ナルトが苦笑する。ぼそりと告げた。
「責任取れよ」
 要求。考えもしなかったそれ。返事をすることを忘れた。言葉が継がれる。
「一生、ドレイだからな」
 その言葉に思考が止まった。意味を噛み締める。微笑み、「承知した」と答えた。


 求めていた。
 諦めながらも、求め続けていた。
 お前をこの手にすることを。 


 一つ一つ、確認した。壊さないように怖れながら。不安でその都度、あいつを見つめてしまった。
「いいか?」
 意を決し、そこに指をのばした。躊躇いながら囁く。ナルトが困ったような顔をして、俺の手を取った。あいつの中へと導かれてゆく。
「熱いな」
 その部分の熱さに、声が出た。慎重に慣らしてゆく。傷つけたくはなかった。
「もう・・・いいから」
 じれったそうに言われた。拗ねた様な表情。その裏にあるものを思い、俺は口元を緩めた。
「来いよ」
 両腕が首に回る。開かれた身体に進んだ。あいつの熱さの中に、包み込まれてゆく。
「・・・んっ・・・・」
 息も。熱も。声も。
 混じり合い、溶け合さって二人の境界をなくしてゆく。同じ高みを目指して。一つのものになって。
 意識が飛散を迎える時、確かにそれを聞いた。


 太陽が呼んだ、俺の名前。
 

 耳から脳へ。脳から全身へ。波紋のように広がる。
 至福だと思った。





「サスケ」
 ぱちんと頬を叩かれ、我に帰った。青い目が見上げている。ナルトが起きていた。
「なに考えてんだよ」
 不機嫌な表情。
「何も。ぼんやりとしていた」
 苦笑して返せば、くるりとそっぽを向かれた。白い項が姿を現わす。思わず、唇を寄せた。
「・・・・どうしてくれるんだよ」
 ぼそりと零す。意味がわからず、身体を起こした。顔を覗きこむ。
「これじゃあ、夕方まで起きられねぇよ」
「ナルト?」
「昼、お前にラーメン奢らせようと思ってたのに・・・・」
 尖らせた口。何よりも愛しいそれ。
「作る」
 そっと囁いた。肌が波打つ。
「昼は、お前の食べたいものを作る。それでは駄目か?」
 更に言葉を落とし、確認する。返事を待った。しばらくして。
「あったりまえだろ。・・・・・・おまえはドレイなんだから」
 ぼそぼそと言葉が返された。俺は微笑む。「了解」と答えた。



 苦しい時も。
 悲しい時も。
 そして、歓びの瞬間も。
 どんな時も俺は、聞き続けて生きてゆきたい。
 あいつの、太陽の呼ぶ声を。
 ずっと。



おわり


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