■『燃える椿の下で』ACT25 対応作品■
独寝 byつう 理寧が龍尾の砦を離れてから、十日が過ぎた。 術の伝授は順調に進んでいるだろうか。時限印の解術。一朝一夕で会得できるものではない。自分でさえ、五日かかった。蒼糸は三昼夜で習得したらしいが。 私室の窓から夜空を眺めながら、煉は木の葉の里で起こっている一件を分析した。 火影は「うちは」を失いたくはあるまい。いや、失うだけならまだしも、他者に牛耳られることはどうしても避けたいのだろう。それほどに、強大な力なのだ。 あの者が印を封じられていたとは。 煉は何度か「うちはサスケ」に会っている。カカシやイルカが里でそれなりの地位に就いてからは、「うちは」と「九尾」は木の葉の使者として、たびたび龍尾の砦にやってきていたから。 気づかなかった。底知れぬものを秘めているとは思っていたが。あのとき解術法を会得していたら、あるいは察することができたかもしれないが。 なにもかも、後手に回っているような気がする。はがゆかった。今回も、できれば自分が行きたかった。こんな気持ちで待つぐらいなら。 『わしが行く』 意外だった。理寧が自分からあんなことを言うなんて。 あの男は、つねに裏方に徹していた。表に出るのは、泥をかぶるときだけ。それがわかっているから、自分はあの男を拒めないのだ。 自分にとっては、あの男こそが諸刃の剣である。森羅のためにふるう刃で、あの男はこの身をもずたずたにする。それでも、必要なのだ。理屈ではなく。 今夜も眠れそうにない。が、体を休めておかねば明日の執務に支障をきたす。 煉は窓辺を離れた。灯りを落とし、牀の幕を開けた。 「眠れぬのか」 低い声。一瞬、空耳かと思った。いま、あの男のことを考えていたから。 「あいかわらず、甘いことだ」 牀の横に、ここにいるはずのない男の姿を認めた直後。 煉は首を鷲掴みにされた。声を上げる暇もなく、牀に投げられる。 なんの冗談だ。これは、いったい……。 帯が乱暴に解かれる。なんの準備もなされていない場所に、いきなり指が差し込まれた。 「……んっ!」 硬直した。かまわず、指は進む。わからない。この状況はわからない。いったい、木の葉の里でなにがあったのだろう。 ぐい、と腰を引き上げられた。このままでは体をさらに傷つけてしまう。煉は息を吐いた。少しでも、ダメージを小さくするために。そのタイミングを逃さず、指は中をかき回した。 「あっ……あ……ん…」 声が漏れた。快楽にはほど遠い。が、その先にあるものを知っているだけに、声を抑えることができなかった。 苦しい。こんなに体は苦しいのに。どうして、それでもいいと思ってしまうのだろう。おまえには。 「り……」 名前を呼ぼうとしたとき、指が逃げた。無意識のうちに、腰が追う。片脚がとられ、体を返された。 薄明かりの中、冷たい光を宿す漆黒の瞳と、光を通さぬ白濁した瞳が見えた。どちらも、この身を射貫く。否。心までも。 ふたつの熱源を放置したまま、理寧は首筋に口付けた。強く、熱く。いくつもの跡が肌に記されていく。その間にも、内部は狂おしいほどに潤んでいた。 わからない。でも、いい。この男が欲しているのなら。 『理由など、いるのか』 いつだったか、そう問われた。 『おまえは、なにゆえわしに抱かれるのだ』 答えられなかった。思えば、「なぜ」と自問したこともなかった。あえて言うなら、この男が「そこにいた」から。 自分がいちばん、いてほしかったときに。実の父を手にかけ、生きている意味もわからなくなっていたときに。 逃がさぬ。一生、おのが業を背負ってゆけ。 そう宣告されたような気がした。だから、自分はふたたび歩き出せたのだろう。 脚が開かれた。つま先まで痺れる。内部に侵入してきたものが、生き物のようにうごめいた。 「は……っ……あ…あっ……」 腰が揺れる。自分ではもうどうしようもない。止めることも、進めることも。 なにを求めているのだろう。どうしろというのだろう。 なんでもいい。どうでもいい。頭も体も、自分のものではないようで。 隅々まで、浸透していく。この男が。 ふたりがふたりになったとき、煉は完全に意識を失っていた。 いつ、出ていったのか。 それすらも煉にはわからなかった。もともと気配を消すのが異常に巧い男ではあるが。 目覚めたとき、幕の隙間からほんのりとした光が差し込んでいた。 朝だな。ぼんやりと、そう思った。そして。 ふたたび、煉は目を閉じた。 昼餉の時間に房にやってきた幹によると、理寧が術を教えているのは中忍らしいということだった。 なるほど。長引くはずだ。 あの術は上忍でも会得には数日かかる。それを中忍に教えているとは。 それにしても、なにゆえ火影はそのような者に里の大事を任すことにしたのだろう。カカシかイルカであれば、それこそ一週間もかからずに術を我がものとするだろうに。 なにか、隠された事情があるのだろう。われわれには伝えられぬほどの。 まあ、いい。すべては、あの男が帰還すればわかることだ。その中忍がいかほどの者なのかも。 昼餉ののち。 明らかに疲労の残る体に鞭打って、煉は午後の業務をまっとうするため、私室を出た。 (了) 『燃える椿の下で』ACT25へ |